ヘルマン・シェルヘンのベートーヴェン全集より

荒々しい。思わずのけ反ってしまう。テンポ設定も楽器のバランスも無茶苦茶。唸り声も半端でない。自棄のヤンパチというか・・・(笑)。
こういう演奏は間違いなく賛否両論あろう。楽聖への冒涜だと口角泡にして怒りを顕わす人もいるだろうし、これほどまでに「露わな」音楽は聴いたことがない、独自だと唸る愛好家もいることだろう。この際それはどっちでも良い。一期一会のドラマのつもりで、それこそ文字通り一度きり本気で向かい合うなら大いにあり。

かく言う僕も本当に10数年ぶりに真剣に聴いた。全集から第1番と「エロイカ」、そして第7番と第2番を。半ば吹き出しそうになりながら、そのうち「マジ」になっている自分がいた。火傷しそうなくらいの血の滾り(たぎり)、そしてまるで機関銃の一斉掃射のような破壊力。一番ぶっ飛んだのは実に第1交響曲。「エロイカ」シンフォニーが驚くような名演だとはこの音盤がリリースされた当時から大きく話題になっていたのでそれはわかるのだが、僕の一押しはこのハ長調のシンフォニー。ピアノの世界で名を挙げ、室内楽でもようやく名作を生み出し、そして20代最後の年に満を持して書き上げたベートーヴェン最初の交響曲。言葉では表現し難い。とにかく荒れ狂った、革新的交響曲が眼前に迫る。モーツァルトやハイドンの影響はもちろんあるのだが、あくまでベートーヴェンに焦点を当てて指揮者が音楽を作ってゆく。怒りのベートーヴェン。まさに疾風怒濤。

ベートーヴェン:
・交響曲第1番ハ長調作品21(1965.1.8録音)
・交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」(1965.2.12録音)
・交響曲第7番イ長調作品92(1965.3.19録音)
・交響曲第2番ニ長調作品36(1965.1.8録音)
ヘルマン・シェルヘン指揮ルガーノ放送管弦楽団

僕が入手した頃は山野楽器がライセンスを持っていた時代だった(YMCD1013-17)。解説書も何もない、装丁も半ば手抜きのシンプルなものだけれど、20年近く前に初めて聴いたときは残念ながら「その価値」まで認知できなかった(これは完全に僕の感性の欠如からくるもの。というより90年代の初めはベートーヴェン=フルトヴェングラーという観念がまだまだ僕の中を占めていた時期ゆえということもある。思い込みというのは体験を奪ってしまう)。だいぶ奥にしまって、腐りかけていたものを、来月の講座に向けていろいろと聴いておこうとたまたま取り出して聴いてみたということ。

シェルヘンは1966年6月にリハーサル中に倒れ、そのまま数日後に亡くなってしまう。ということは逝去前年の録音ということになるが、あまりに若々しいというかやりたい放題の演奏に心底感心する。おそらく極めて正確なバトン・テクニックを武器にオケの団員を掌握し、完璧な独裁者として君臨したのだろうことがこれらの録音を聴いて容易に想像できる。とにかくオーケストラが見事に、懸命について行こうとする様、その従順な忠誠心のようなものまでもがはっきりと刻印されているところが素晴らしい。
ほかの3枚も順にあらためて聴いてみよう。真面目に・・・。

13 COMMENTS

岡本 浩和

>ふみ君
あ、やっぱり?(笑)
でもこれは実演を聴いてなんぼという演奏だと思います。
とはいえ、そのつもりで真剣にスピーカーに向かうとすごく感動するしね。
素晴らしいセットだな、、、。

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ふみ

オケがめちゃくちゃに下手ですが(笑)一期一会の演奏ですよね。本当に仰る通り実演聴いてなんぼの世界の演奏だと思います。そういえばベートーヴェンの交響曲でこういう古典派様式を完全に壊した演奏って実演で聴いたことないです。この間のサロネンのベト7は素晴らしかったですが、ここまで変態ではなかったかなと(笑)

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neoros2019

宇野さんの評文につられて学研の全集だったかを所有していました
うーん・・・・・わたしはこれは駄目でしたね
第9の4楽章の弦のパートの音符のほとんどが落っこちてしまう状態は、習志野の市のアマオケのブルックナーの8番を聴きに行った時を思い出してしまいました
シェルヘンのエロイカを聴いた後は、すぐ‘68収録の恐るべき鉄壁のムラヴィンスキーや快刀乱麻の‘53のトスカニーニを聴きなおしたような記憶があります

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みどり

ふみ様、サロネンお聴きになられるのですね。
“1001Nights ”、ご存じではないでしょうか、なかなか面白いのですが。

すみません、通信欄にさせていただいてしまいました。
岡本さんはサロネンてあまり採り上げていらっしゃらないですよね?

素人っぷりを全開で申し上げれば、ブロムシュテットの全集、国内盤では
なくてベルリンクラシックスの、とてもいいです。
岡本さんのお好みとは違うかもしれませんが、7番の第4楽章なんて
笑ってしまうぐらい凄いです!
機会がありましたら是非。

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岡本 浩和

>ふみ君
古典派様式をぶっ壊した演奏はね・・・、宇野功芳指揮のものが最右翼です。変態すぎて熱が出るよ(笑)。

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岡本 浩和

>neoros2019様
neorosさんも宇野功芳にやられましたね!(笑)
僕も同じくその批評を見て速攻で買い求めました。
そうですか・・・だめですか。まぁ、ほんとに受け付けない人も多いでしょうね。
アマオケのブル8ですか・・・。アマオケも最近はレベルは相当あがってますが・・・。
ちなみに、ショスタコ専門のダスビは超おすすめです。
http://www.dasubi.org/
今年の定期は仕事でどうしても行けなくて涙をのむことになるのですが・・・。

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岡本 浩和

>みどり様
サロネンはですね、お恥ずかしながらそれこそふみ君に教えを乞うてようやく開眼した次第です。
多分、一度も採り上げたことないと思います。
ブロムシュテットですか!!
これは未聴です。
また悪魔の声が・・・(笑)

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ふみ

SAKURAはオケとして認知してはいけないものでは(笑)
ブロムシュテットのベト、持ってますがみどり様の仰るベルリンクラシックのではないような気が…長い間、実家にあるので分からなくなっちゃいました。クラシック部屋欲しいなぁ(笑)

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岡本 浩和

>ふみ君
SAKURAもそうだけど、新星日響とやったシリーズの方。あれはいくつか実演でも聴いてるけど、やばかった。(笑)
そういえば昔イギリスに行く前にブル8貸してあげたよね。あのシリーズ。

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ふみ

新星とのベートーヴェンはCDでいくつか聴きましたが、SAKURAの数万倍マトモですよね(笑)
あのブル8ですね!あの時はありがとうございました。あのブル8、マトモですよね。

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みどり

岡本様、ふみ様
ちょっと前言を翻させていただくことになりそうです…

ブロムシュテットの好きなんですが、「ベルリン・クラシックス盤」でなくて
「国内盤」でお聴きください。

国内盤も持っているのですが、レビューでの評価が「ベルリン盤の方が
音が良い」と言われていることに、別の理由があるといけませんので
ちょっと調べる必要がありそうです。

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