お別れ

brahms_sonaten_ugorski.jpg母の義父が癌のため亡くなった。僕の母は実父を幼い頃に亡くしており、(当時の田舎の慣習なのかどうかはわからないが)そのため実父の弟が家を継ぐことになり、実母と結婚したようだから、母にとってみると義父ということになる。かれこれ15年前に亡くなった母の母、つまり僕にとっての祖母は子どもの頃から「おばあちゃん」と呼べる存在だったが、母の義父に関してはどういうわけか「おじいちゃん」とは呼んでいなかった、いや呼べなかった。上記の事実を子どもの頃からもちろん知っていたわけではない。子どもは正直だから、周りの大人の様子をみて直感的に判断していたのかもしれない。当時何て呼んでいたのかは覚えていないし、今でも何て呼べばいいのかよくわからない。ともかく母の義父であり、しいて言うなら「おじいちゃん」ではなく「おじいさん」なのである。もともと屈強な身体の持ち主だったが、そのおじいさんも80歳を越えてからいろいろと身体に不調が出るようになったらしい。年に1度会うか会わないかの間柄だから、余計にそう思うのかもしれないが、ついこの前会ったときはまだまだ元気だったのにと、人間の死のあっけなさに少々居た堪れない思いもある。確かこの正月には会えなくて、最後に会ったのは去年の10月の結婚式の時だったと記憶する。数年前から顔を会わせるたびに「いつ嫁さんを連れて来るんだ。死んでからだとお祝いをあげられないぞ」と冗談交じりとはいえ本気で言われていたが、少なくとも生前に嫁さんを会わせることができたので、それは本当に良かった。

癌の場合直接の死因が癌そのものでないことが多い。つい1ヶ月近く前に入院し手術をしたそうだが、痛み止めのモルヒネなどを打つことで心臓に負担がかかり、結局はそれが原因で亡くなってしまったとのこと。80歳を越えれば寿命だし、大往生だとは思うが、何だか手術もせず入院もせず、自然の流れに任せて死を迎えるほうが「正しい」逝き方なのかなとふと考えてしまう。そういえば、25年以上前、ちょうど大学に入学した年の夏季休暇中、1ヶ月ほど造園のアルバイトをさせてもらったことが懐かしく思い出される。東京に来てからは滅多に会うことはなくなったけど、本当にいろいろとお世話になった。ありがとう。冥福をお祈りします。

ということで、故人を悼み、ベートーヴェンの「告別」ソナタをいま一度聴こうとパドゥラ=スコダのアナログ・レコードを取り出して聴いたが、曲想もそぐわないし、そもそも作曲家自身がつけた「告別」の意味が少々違うのでやめにする。ならば、「葬送」ソナタかと思い、バックハウス盤をかけようとしたところ、この音楽は「ある英雄の死による」ものだからこれも違うと考えていたら、ふとバッハの音楽が頭を過ぎった。

J.S.バッハ:シャコンヌニ短調(左手のための)(ブラームス編曲)
アナトール・ウゴルスキ(ピアノ)

ブラームスの3つのソナタとヘンデル変奏曲を収めた2枚組CDより。ブラームスが左手のためにアレンジした「シャコンヌ」は高貴かつ、深い祈りに満ちたモノクロの音楽だ。一本の腕でそれも左手だけでこれほどのピアノ音楽に昇華した作曲家の技量もたいしたものだが、やっぱりここはウゴルスキのピアニストとしての力量、感性が凄いのだろう、一層音楽に拍車をかける(ウゴルスキの名盤という名盤がことごとく廃盤になっているのは解せない)。

最後のお別れのため、急遽明日帰省する。週末は仕事が入っているので、慌しいが「とんぼ返り」だ。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
謹んでお悔やみ申し上げます。
亡くなられたご親族の方の、ご冥福をお祈りいたします。
ご紹介のウゴルスキのブラームスのCDは未聴でしたので、先日ご教示いただきましたピアノ・ソナタ第3番とともに入手し、是非じっくりと聴いてみたいと思います。
それにしても「左手」の名曲、ラヴェル以外にも数多くあるものですね。
この分野は、最近の舘野泉さんのブームにも影響され(昨年二回舘野さんの実演を聴きに行き、感動しました)、
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00067SSX8/dwebportal-22/ref=nosim
今私も注目しているジャンルのひとつです。

返信する
岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
ウゴルスキ盤、ぜひじっくりと聴いてみて下さい。
そうですね「左手」の名曲って多いですよね。
>最近の舘野泉さんのブームにも影響され
なるほど!舘野さんはいいですよね。まさに注目に値します。

返信する

岡本 浩和 へ返信するコメントをキャンセル

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む