
すでに以前からそのきざしはあったと思う。聴く耳を持った人は『リボルバー』の中の『エリナー・リグビー』と『トゥモロー・ネバー・ノウズ』を“その次に来るもの”のはっきりしたヒントとして受け取っていただろう。この2曲は、スタイルがまったく変わってしまうその前ぶれだった。実は私でさえ、その変化がどれほど重要なものか、その理由が何なのかさえわからなかった。フラワー・パワー、そしてヒッピーとドラッグの革命が起こりつつあった。私の目の前にいるこの若者たちにもその影響がみられたのだが、私特有の無知のため、本当に起こっていることの全体の姿が見えなかった。鼻先でマリファナが燃えていても、私はその臭いがどんなものかさえほとんど知らなかったのである! しかし、音楽の世界でエキサイティングな何かが起こりつつあることには気づいていた。
~ジョージ・マーティン/吉成伸幸・一色真由美訳「ザ・ビートルズ・サウンドを創った男―耳こそはすべて―」(河出書房新社)P294
知れば知るほど、知識を持てば持つほど無知になるという矛盾。
それこそ「考える」能力を持った人間の弱点だ。
いかに常識を脱却できるか。
天才にはそれが可能だった。そもそも「常識」などという文字は彼らの辞書にないからだ。
僕がライヴを観たのは、2005年のSMiLEツアーだった。国際フォーラムでの飛び切りのライヴ。素敵だった。
あれから20年が経過する。
そして、再び彼を観たのは、2016年のジャパン・ツアーでの「ペット・サウンズ」完全再現ライヴだった。

他の人たちが僕らのやることに興味を持ち始めた。僕はいつも感じてたんだけど、ストーンズは僕らのやることをすぐ真似するんだよ。僕らが『ペパー』みたいなことをやれば、その1年後に彼らは『サタニック・マジェースティーズ』を出す。あの頃は他にも、たとえばドノバンなんかはすごくファンキーないいレコードを出してたけど、僕らみたいにとんでもない楽器の使い方を考えたり、アートに凝ったりする人はいなかったと思うよ。
これまで何度も言ってることだけど、一番影響を受けたのはビーチ・ボーイズのアルバム『ペット・サウンズ』だったんだ。僕があそこからいただいたのは基本的にハーモニーだ。それにあれは実のところアヴァンギャルドじゃない、ストレートな音楽、サーフ・ミュージックだよ—でもちょっとだけ、歌詞やメロディの面から、解釈を広げたのさ。
(ポール・マッカートニー)
~The Beatles アンソロジー(リットーミュージック)P253
The Rolling Stones “Their Satanic Majesties Request” (1967)

・The Beach Boys:Pet Sounds (1966)
Personnel
Al Jardine (vocals)
Bruce Johnston (vocals)
Mike Love (vocals)
Brian Wilson (vocals; plucked piano strings on “You Still Believe in Me”; bass guitar, Danelectro bass, and organ on “That’s Not Me”; piano on “Pet Sounds”; overdubbed organ or harmonium on “I Know There’s an Answer”)
Carl Wilson (vocals; lead guitar and overdubbed 12-string electric guitar on “That’s Not Me”; 12-string electric guitar on “God Only Knows”)
Dennis Wilson (vocals; drums on “That’s Not Me”)
ポールの言葉通り、ポピュラー音楽史上の最高傑作。
(幾度採り上げたことだろう)都度都度感激するのだからすごい。
ポピュラー音楽の巨星が堕ちた。
これでウィルソン兄弟は全員が鬼籍に入ったことになる。残念だ。
(ここぞとばかりに)不朽の名盤「ペット・サウンズ」を聴いた。
悲しいというより、奇蹟の音楽たちがむしろ喜んでいるように僕には感じられた。
“Wouldn’t It Be Nice”から”Caroline, No”まで全13曲(36分ほど)。
このアルバムはこの順でなければならない。もちろん、ボーナス・トラックなど不要。
ジャンルを超えて綺羅星の如くあらゆるアーティストに影響を与えたブライアンは真の天才だった。
もう一つ、名作”Surf’s Up”を久しぶりに聴いた。
(この曲もポールに影響を与えているのではなかろうか。”Band On the Run”の構成を髣髴とさせる)
僕は一人静かにブライアン・ウィルソンを追悼した。



