シューベルトの舟歌

歌曲王シューベルトは600曲以上のLiedを残した。とても多くの名曲の中で僕が最も心惹かれる楽曲は「水の上で歌うD.774」。
舟歌のリズムをもつ伴奏により、舟の漂い、湖水に映る夕陽の煌き、昼夜の微妙な陰翳の変化、そして時の移ろいを意識する無常感を映し出す絶唱。

シューベルト:「水の上で歌う」D.774 作品72
バーバラ・ボニー(ソプラノ)
ジェフリー・パーソンズ(ピアノ)

微かに煌く波の上で
小舟が白鳥のように揺れている。
ああ、穏かに悦び光る波の上で
心も小舟のように揺れている。
波に映る空の夕映えも
小舟の周りで戯れている。

ああ、時は揺れる波の上で
露の翼に乗ってわたしから去ってゆく。
時よ、明日も輝く翼に乗って、
昨日や今日と同じように去ってゆけ。
わたしも輝く翼に乗ってもっと高く
この移り行く時から去ってゆくのだ。

もう10年以上前だと思うが、松田優作と吉永小百合が出演していた何とかという映画で使われていたのを聴いたのが最初の出逢い。その瞬間から、「何て美しい歌だろう」とうっとりとしてしまった(どうも僕らしい表現じゃないが・・・)ことを思い出す。
本来シューベルトの歌曲は決して好きな音楽ではない。しかし、ショパンの舟歌のような哀感とアンニュイな雰囲気を醸し出しているこの曲だけは別。
何度聴いても飽きないどころか、ますます惹かれてしまう。

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