カザルス指揮マールボロ音楽祭管 モーツァルト 交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」(1967.7.15Live)ほか

珠玉のト短調交響曲K.550。
これまで数多の演奏に触れてきたが、近代オーケストラによる古典の造形美と、ピリオド的弾みと強烈なアタックを兼ね備えた、いわば現代の革新的モーツァルトの走入であり、平和を希求するパブロ・カザルスの疾風怒濤のような怒れるモーツァルトである。
晩年に至り、カザルスがついに獲得した境地。
巨匠は語る。

驚く人もいるだろうが、私はチェロだけでは少しも満足できなかったのだ。チェロだけに縛られると、くたくたに疲れてしまう。(略)私は音楽を演奏することに興味をもっており、私の心はそれを毎日食べるパンのように要求している。そして、心の奥底から深く感じるままの形で音楽を演奏するために、すべての形が含まれているオーケストラ以上にすぐれた楽器があるだろうか?
ホセ・マリア・コレドール/佐藤良雄訳「カザルスとの対話」(1955年)から
ジャン=ジャック・ブデュ著/細田晴子監修/遠藤ゆかり訳「パブロ・カザルス―奇跡の旋律」(創元社)P40

カザルスが愛した音楽、そして、生涯平和を希求し続けた巨匠の、激する音楽に心の動かない者があろうか。第3楽章メヌエットでの、これほど喜びに溢れた舞踊があるかと思わせるほど(老練のカザルスが軽快に踊る様子が想像できる)。続く終楽章アレグロ・アッサイは逆に実に厳しい様相を示し、モーツァルトの小宇宙(喜怒哀楽すべて)を体現する。

そして、ト短調交響曲以上に素晴らしいのが人類の至宝たる「ジュピター」交響曲だ。

モーツァルト:
・交響曲第40番ト短調K.550(1968.7Live)
・交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」(1967.7.15Live)
パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管弦楽団

老境の指揮者ながら、若々しい、推進力高い、渾身のモーツァルト。
先のト短調同様、カザルスの「音楽をする」ことが楽しくて仕方がない様子がひしひしと伝わってくる演奏だ。

第1楽章アレグロ・ヴィヴァーチェのアポロン的構築美と内側から溢れ出るディオニュソス美の見事な調和とでもいうのか。これをもってカザルスの天才を語るのは容易だ。
続く第2楽章アンダンテ・カンタービレの湿潤な響きは、まさに世界の平和を目指すカザルスの真骨頂。
そして、第3楽章メヌエットの(ト短調と同質の)喜びの舞踊に心が躍り、終楽章モルト・アレグロの、造形といい、テンポといい、実に理想的な自然美を示す(まさにカザルスは心の奥底から深く感じているようだ)。

カザルスはこの地上で、天の言葉を語った。彼は、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューマンの作品に耳を傾け、それらのメッセージをわれわれに伝えている・・・。
(エルネスト・クリステン)
~同上書P117

カザルス指揮マールボロ音楽祭管 モーツァルト 交響曲第35番ニ長調K.385(1967.7.30Live)ほか カザルス指揮マールボロ音楽祭管のモーツァルト「プラハ」K.504(1968.7.14Live)を聴いて思ふ カザルス指揮マールボロ音楽祭管のモーツァルト「プラハ」K.504(1968.7.14Live)を聴いて思ふ カザルスのモーツァルト「リンツ」交響曲を聴いて思ふ カザルスのモーツァルト「リンツ」交響曲を聴いて思ふ

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