
僕が朝比奈隆を意識して聴いた最初は1980年10月だった。
あのブルックナーにはとても感動した。
そのときの感激は、今でも僕の内側から沸々と湧き上がってくる。
その後、御大の録音を聴くようになり、特に1983年4月に上京してからは、御大の東京公演があるたびに足を運んだ。はじめのうちはまだまだ東京での人気は薄かったのだが、10年もしないうちに大変な人気を獲得し、コンサート会場の終演後の様子は「一般参賀」と名づけられ、実に神々しい光景が繰り広げられたものだ。
確かに凡演もあるにはあった。
しかし、手兵は当然ながら慣れたオーケストラ相手の音楽は、ベートーヴェンにしてもブラームスにしても、もちろんブルックナーにしても大変な名演奏ばかりだった。
1983年の春先だろうか、BKで放映された「朝比奈隆75歳 ただ今青春まっただ中」を観た。42年の時間を経て初めて観たその番組は、いかにも大阪らしい作りで(司会は藤本義一、そしてお相手は何と高石友也!)、朝比奈の人間味あふれる側面を打ち出した内容に、とてもほのぼのとした思いが募った。(あの頃がとても懐かしかった)
・朝比奈隆75歳 ただ今青春まっただ中(1983)
朝比奈隆
藤本義一
高石友也
番組の中で特に気に入ったやり取り(31:08~)。
藤本:
川島雄三という人がいましてね、その師匠にあたる人が肉体的に大変弱い人なんだけど、ものすごい天才なんだろうね、「藤本、お前何になるんだ」というから「シナリオライターになりたい」って言ったらね、「頭で考えていることを100にしろ」って言うのですね。そして、「言葉にするのはその10分の1だ」と。つまり、頭で考えている思考能力は100だと、そして「言葉でこんなのを書きたいです、表現したいですというのは10分の1だ」と。「手で書くのはさらにその10分の1だ」と。「頭で考えている1%だけが文字になるんだから、そこから始まるんだ」というわけです。
朝比奈:
音楽でもそうですね。音楽でもいろいろ考えますよ。それで実際にやって見られるのは10分の1で、本当にできるのはそのまた10分の1ですね。
藤本:
やっぱりそうですか!
実際に表現としてアウトプットできるのが1%ならば、考え尽くす必要があるのは当然だ。
努力の人、朝比奈隆の人となりをあらためて実感した良き番組。
高原の夏の夜の涼風を肌で感じ、感謝を思う。