オッター&アバド指揮ウィーン・フィルのベルク「7つの初期の歌」(1993.4録音)ほかを聴いて思ふ

alban_berg_collection741世紀末の絢爛と退廃。
線香花火がその最後に最も燃え盛るように、没落し行くハプスブルク帝国の終末の光輝。
グスタフ・マーラーに憧れ、20世紀現代音楽の嚆矢となったいわゆる「新ウィーン楽派」諸氏の天才。

詩にインスパイアされ、そこに音楽を付す才能。あるいは、音楽から刺激を受け、詩を生み出す能力。大袈裟だけれど、それらは人間業とは思えぬ神通力。
そして、若きアルバン・ベルクの恋の顛末。結婚の2年前のヘレーネからの手紙。

私がいつも考えるのは、あなたがしょっちゅう私への熱い愛について書いてくることです。私たちの未来は、あなたが健康を取り戻すかどうかにかかっているのがわからないの?私の両親があなたを拒絶したとしても、それはあの人たちの立場からすれば当然とも言える。私があなたの心配ばかりして幸せになれないのを、あの人たちは恐れているのです。
田代櫂著「アルバン・ベルク―地獄のアリア」(春秋社)P69-71

親が子の幸せを思うのは世の常。しかし、一番幸せなのが、その子が自分らしく、そして自分の望むとおりに生きることだということを両親はわかっていた。何より、この後に続くヘレーネのアルバンへの言葉にならない深い愛情。

いいえ、アルバン、私はあなたを諦めない!もしかしたらあなたは何か「大きなこと」をやってのけるかも知れない。私はそれを手伝いたいだけなの、あなたが虚弱さに負けずに働けて、心臓の痛みや喘息の発作に煩わされることなく、自らの人生を享受できるように。
~同上書P71

ヘレーネの先見、人の力を見抜く力。男冥利に尽きる。こういう女性の献身的サポートがあったからこそアルバン・ベルクがあるのだと思う。

さらには、その数年後、マーラーのウィーンでの告別コンサート(自作の「復活」交響曲)を聴いたアルバンが、ヘレーネに送った手紙。

マーラー交響曲のフィナーレでのことだったが、僕はしだいに忘我の境に陥った―まるでこの世界に、その音楽とそれを享受する僕しか存在しないかのように!心を揺さぶる崇高な結末を迎えた時、突然かすかな痛みとともに、ある声が僕の中に起こった。ではヘレーネも存在しないというのか?最初に気付いたのは、僕が君に忠実でなかったことであり、心からそれを詫びたい!!ただ一人の人、君は僕を理解し、許してくれるだろうね?!
~同上書P82

まるで先の手紙に対する返歌のような内容。熱い・・・。
ちょうどその頃作曲された「7つの初期の歌」。フォン・オッターの歌は各曲に通底する底なしの恋の想いを表現し、艶やかだ。

ベルク:
・7つの初期の歌(管弦楽版)(1928)(1993.4録音)
アンネ=ゾフィー・フォン・オッター(メゾソプラノ)
・アルテンベルク歌曲集作品4(1912)(1994.11録音)
ユリアーネ・バンゼ(ソプラノ)
・管弦楽伴奏歌曲「酒」(1929)(1993.10録音)
アンネ=ゾフィー・フォン・オッター(メゾソプラノ)
・交響的小品「ルル」組曲(1934)(1994.11録音)
ユリアーネ・バンゼ(ソプラノ)
クラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

「7つの初期の歌」の中で、例えばリルケの有名な詩に曲を付けた第4曲「夢の仕上げ」のあまりの美しさ。

私は怖かった、あなたはそっとやさしく傍に来た、
私はちょうど夢の中であなたを思っていた、
あなたが来ると、童話の調べのように
静かに夜が響き始めた。
~同上書P77

また、カール・ハウプトマンの詩による第1曲「夜」の妖しげな響きに早くも心奪われる。

この崇高な世界は夢のように清らかだ。
路傍のブナの木が、影のように黒々と
物言わず佇み、遠くの森からの風が
淋しく吹き抜ける。
~同上書P75

真に情景を具に音化できるアルバン・ベルクの才。すべてがヘレーネとの恋の最中に渦巻く感情の見事な表現であると気づいたときの感動。
オッターの歌もさることながら、それを支えるクラウディオ・アバドの伴奏の巧さ。

 

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2 COMMENTS

雅之

>いいえ、アルバン、私はあなたを諦めない!もしかしたらあなたは何か「大きなこと」をやってのけるかも知れない。私はそれを手伝いたいだけなの、あなたが虚弱さに負けずに働けて、心臓の痛みや喘息の発作に煩わされることなく、自らの人生を享受できるように。

何となく歌いたくなりました(笑)。

・・・・・・胸の中にあるもの
いつか見えなくなるもの
それは側にいること
いつも思い出して
君の中にあるもの
距離の中にある鼓動
恋をしたの貴方の
指の混ざり 頬の香り
夫婦を超えてゆけ
二人を超えてゆけ
一人を超えてゆけ

星野 源 「恋」より
https://www.amazon.co.jp/%E6%81%8B-%E9%80%9A%E5%B8%B8%E7%9B%A4-%E6%98%9F%E9%87%8E-%E6%BA%90/dp/B01KHJ3BDG/ref=sr_1_1?s=music&ie=UTF8&qid=1485565275&sr=1-1&keywords=%E6%98%9F%E9%87%8E%E6%BA%90+%E6%81%8B

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岡本 浩和

>雅之様

この歌は聴いたことがないですが、歌詞はぴったりですね。
雅之さんのインスピレーションに拍手!!(笑)

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