ウィリアム・ウー メモリアルコンサート

091004_william_wu.jpg今宵、知人の招待で上野の東京文化会館で開催された「ウィリアム・ウー メモリアルコンサート」に妻と行く。ウィリアム・ウーという音楽家の名前は初耳で、当然経歴やその芸術などに関して何も知らないままの参加となったのだが、どうやら今年1月に急逝されたテノール歌手らしく、ピアニストであるご令嬢が中心になって開催にこぎつけた追悼公演だったようである。

プログラム
前半
・ウィリアム・ウー記録フィルム上映
後半
・ショーソン:詩曲作品25(ピアノ伴奏版)
・チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲イ短調作品50「ある偉大な芸術家の思い出」
~アンコール
・マスネ:歌劇「タイース」~瞑想曲
村田穂積(ヴァイオリン)、村田桃子(ピアノ)
・シューマン:献呈(リスト編曲ピアノ独奏版)
アリーナ・ウー(ピアノ)

アリーナ・ウー(お話とピアノ)、斉藤和久(ヴァイオリン)、中村潤(チェロ)
ゲスト 村田穂積(ヴァイオリン)、村田桃子(ピアノ)

文化会館の小ホールには初めて訪れた。なかなか味のある、室内楽にはぴったりだろう雰囲気を持つ会場。品の良さそうな紳士淑女もちらほらといらっしゃり、意外にも会場はほぼ満員の状態。
ちなみに、前半は1時間にも及ぶウィリアム・ウーの記録フィルム上映。正直これはいただけなかった。あくまで記録用の映像を荒く編集してあるところに、(もともと生音を聴かせるように設計されているホールということもあり)PAを入れ、客席から向かって右側の壁に無理やりフィルムを映すという無謀さに少々呆れた。映像垂れ流しのこの1時間はいくらなんでも長過ぎる。故人を追悼する目的ならせいぜいフィルムは15分ほどにし、あとはトークなどを入れながら進行してもらった方がより緩急に富み、お客様を飽きさせず、好評だったのではないかと思えるのだ。僕はといえば・・・、申し訳ないが、ほとんど天を仰いで夢の中にいた。

そして、15分間の休憩を挟み、後半。
まずは、ドイツ・カンマーフィルで活躍中だという村田ご夫妻によるショーソンの詩曲。10代の頃からチョン・キョンファの名演奏で愛聴していた曲だけに初めて接する実演に期待と不安が入り混じる。さすがに管弦楽伴奏による演奏の醍醐味には敵わないものの、なかなかの美音で、テクニックも申し分なく「これは!」と思わせてくれる。ピアノ伴奏で聴く「詩曲」も味わい深くてなかなかのものである。さらに、メイン・プログラムであるチャイコフスキー。これは本当に泣かせる曲。ことによるとチャイコフスキーの最高傑作ではなかろうかと思えるほど・・・。もう10年以上前にすみだトリフォニーホールでのアルゲリッチ、クレーメル&マイスキーの実演に接し、その時の興奮がいまだに忘れられないが、ああいうテクニシャンがぶつかり合って成し遂げる名演奏とはまた違った意味で感動した。第1楽章のピアノの前奏が始まるや「あぁ、これこれ!」と早速懐かしさを覚え、第1主題がチェロによって現れる瞬間にはすでに楽曲の虜になってしまうこの音楽のもつ魅力は並大抵のものじゃなかろう。それに、第2楽章のコーダで第1楽章第1主題が回想されるところなどは、まさに「メモリアル!」、涙なくしては聴けない。ただし、本来なら3者が同等の力量で、パッショネートにぶつかり合う至芸が見ものの音楽が、今夜の演奏ではピアノが出しゃばり過ぎていたきらいがあり(ヴァイオリンとチェロが弱すぎるという見方もある)、少々バランスに問題がある演奏だった(その点は残念)。

それにしても三重奏とは見事な形態だと思う。3人が対等にメロディを弾き分け、時に協力し、時に反発し、最後はひとつになってゆく。

ところで、舞台MCはご令嬢のアリーナさんが受け持たれていたが、お話ももちろんピアノも一級の腕前で、最後まで十分に堪能させていただいた。アンコールのシューマン=リストの「献呈」も素晴らしかった。


4 COMMENTS

kaorin

初めまして。
昨日のコンサートに駆けつけていたピアニストの幼なじみです。
彼女はウィリアム・ウー氏の奥様です。
20歳以上年齢差がありますからお嬢さんに見えても当然ですが…
昨日のコンサートはオープンな物ではなく、
身内の集まりでしたから、あまり公に気を遣っていなかったと思います。
1月に突然なくなったご主人の追悼でもありで、
残された彼女の心を思うと、前半のビデオは胸が詰まりました。
あれは身内にしか理解し得ないビデオでしょうねぇ…
さらに文化会館は非常にうるさいホールですから、小ホールでビデオ上映に関しても壁に白いものを掛けられないとか…たくさんの困難が伴ったと思います。
不出来と不手際は彼女に変わって私が謝罪致します。
退屈させてごめんなさい。
音楽家は音楽以外の事には不得手な事が多すぎ、
特に彼女はピアノを弾く事だけを考えているアーティストですから、
今後、まわりがそういう事を支えてあげねば、と思う次第です。
非常に素晴らしいアーティストです。
岡本さま。どうか、今後もご支援下さいませ。

返信する
雅之

おはようございます。
今回のブログ本文とそのコメントを読んで、涙が出そうになりました。
ウィリアム・ウー氏は私も存じ上げておりませんでしたが、故人のご冥福と残されたご家族のご多幸を、私も心よりお祈りしたくなりました。
人生で最も厳粛な経験は、「失う」ことではないでしょうか。
人間は、失って初めて有難味が分かることって沢山ありますね。
家族も、恋人も、友人も、健康も、平和も、お金も・・・・。
だから、日々感謝して生きなきゃいけませんね。

返信する
岡本 浩和

>kaorin様
初めまして。コメントをありがとうございます。
昨日のメモリアルコンサートの裏事情をお伺いしまして、納得いたしました。
>彼女はウィリアム・ウー氏の奥様です。
>昨日のコンサートはオープンな物ではなく、
身内の集まりでしたから、あまり公に気を遣っていなかったと思います。
こちらこそ表に見える事象だけで勝手な判断をいたしまして大変失礼いたしました。舞台裏ではわれわれ聴衆には思いも寄らない事実が隠されているのだということを忘れてはならないですね。
>あれは身内にしか理解し得ないビデオでしょうねぇ…
確かにそれはその通りだと思います。ただし、僕がもう少し事前にコンサートの事情を知っておけば良かったんだと思います。
>不出来と不手際は彼女に変わって私が謝罪致します。
退屈させてごめんなさい。
いえいえ、とんでもございません。後半の演奏は良かったですよ。アンコールも含め全曲大好きな楽曲でしたし、故人に対する想いも伝わってきました。
また機会がありましたら伺わせていただきます。
ありがとうございます。

返信する
岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
>人生で最も厳粛な経験は、「失う」ことではないでしょうか。
人間は、失って初めて有難味が分かることって沢山ありますね。
家族も、恋人も、友人も、健康も、平和も、お金も・・・・。
だから、日々感謝して生きなきゃいけませんね。
おっしゃるとおりです。日々感謝ですね。

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