ファニーとクララ~輝くふたりのミューズ~

今夜のコンサートは本当に感激した。それは、演奏はもちろんこと全体のコンセプトやステージの演出まですべてにわたって愉しく、かつ勉強になるひとときだった。
「やっと出逢えた!」、果たしてそんな言葉が相応しいかどうかはわからないが、ある意味ではこれまで体験したあらゆるコンサートを凌駕するパワーを秘めた企画だったかも。
何よりファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルとクララ・シューマンの作品のみを舞台にかけるというプログラムが涙もの。もちろん音盤では彼女たちの楽曲に触れるチャンスは今の時代ならそこそこにあるが、生の音に触れるとなるとなかなか機会はない。
しかし、彼女たちの作品に直に触れてみて、弟や夫のように歴史上に名を残さなくとも2人ともやっぱり天才だったことを痛感した。コンサートを終えて、こんなに幸福感を味わったのはいつ以来だろう?関心のない方々からは何を大袈裟なと言われそうな勢いだが(笑)、ともかく今の満足感が並大抵でないことは確かなのである。

レインボウ21 サントリーホール デビューコンサート2012
武蔵野音楽大学プロデュース
ファニーとクララ ―輝くふたりのミューズ―
2012年6月4日(月)19:00開演
サントリーホール ブルーローズ
山下愛(朗読)
子安ゆかり(解説)

ファニー・ヘンゼル:
・アレグレット変ホ長調、アレグロ・モルトハ短調
小島加奈子、谷川瑠美(ピアノ)
・ピアノ三重奏曲ニ短調作品11~第3楽章&第4楽章
武井喜哉(ヴァイオリン)、原悠一(チェロ)、鈴木梨紗(ピアノ)
ファニー・メンデルスゾーン:
・イタリア(詩:グリルバルツァー)作品8-3
・ズライカとハーテム(詩:ゲーテ)作品8-12
ファニー・ヘンゼル:
・白鳥の歌(詩:ハイネ)作品1-1
・山の喜び(詩:アイヒェンドルフ)作品10-5
宇佐美悠里(ソプラノ)、鳥谷尚子(メゾ・ソプラノ)、照屋篤紀(テノール)
氏本舞(ピアノ)
・『庭の歌』(混声合唱のための6つの歌曲)作品3~「誘い」(詩:アイヒェンドルフ)、「美しき異郷」(詩:アイヒェンドルフ)、「朝の挨拶」(詩:ヘンゼル)、「森の中で」(詩:ガイベル)
倉島佐代子指揮武蔵野音楽大学室内合唱団

第1部はファニーの作品集。最初の2つの連弾曲からもう鳥肌もの。亡くなる3年前の作品だが、おそらく弟と二人で連弾しようと生み出されたものなのか、愉悦的で霊感に満ちる。次の、フェリックスの作品66に応える形で創作されたトリオについてはは全曲を聴きたかったところ。フィナーレの重厚さはいかばかりか。フェリックスの名前で出版された「イタリア」と「ズライカとハーテム」も美しい音楽だが、それ以上に僕の心を捕えたのは、栄えある作品1の番号を持つハイネの詩による「白鳥の歌」と急逝する前日に書かれた絶筆のアイヒェンドルフの詩による「山の喜び」!!
あまりに楽観的であるがゆえの哀しみよ・・・。

コンサートは、舞台展開の合間にファニーの少女時代の手紙などが紹介され進んでゆく。1821年にフェリックスがゲーテにあった時のことを書いたもの、あるいは1827年、ピアニストとしてデビューしたときの気持ちを愛する母に書き連ねたものなど。

20分の休憩の後、第2部はクララ・シューマンにフォーカスが当てられる。

クララ・ヴィーク:
・ピアノ協奏曲イ短調作品7(ドラハイム編曲ピアノ六重奏版)~第1楽章
青木佑磨(ピアノ)、大久保智、矢沢まどか(ヴァイオリン)、加藤揚啓(ヴィオラ)
工藤竹彦(チェロ)、寺澤歌(コントラバス)
・スケルツォニ短調作品10
奥村奈々(ピアノ)
ロベルト&クララ・シューマン:
『リュッケルトの「愛の春」による12の詩』から
「あの人は嵐と雨の中をやってきました」(クララ)、「天は一粒の涙を流した」(ロベルト)
「美しさゆえに私を愛するなら」(クララ)、「薔薇と海と太陽は」(ロベルト)
佐藤優衣(メゾ・ソプラノ)、井出壮志朗(バリトン)、清水朋美(ピアノ)
クララ・シューマン=リスト:ひそやかなささやきS569-10
日下部史奈(ピアノ)
クララ・シューマン:
・「前奏曲集」~アンダンテ、シューマンのヘ短調ソナタの緩徐楽章への前奏曲、マエストーソ、シューマンの「夕べに」への前奏曲、シューマンの「飛翔」への前奏曲、アレグレット
小林みどり(ピアノ)

リュッケルトの「愛の春」によるロベルトとクララの腕比べのような作品は甲乙つけ難し。否、というよりこの作品は2人でひとつのものだ。そして、クララがロベルトの作品を演奏する前に前奏として弾いたといわれる前奏曲集の見事さよ!本当にどの曲もロベルトの作品の特徴をしっかりつかみ、聴く者に一層の感動を味わわせる起爆剤となっている。

ところで、リストのアレンジによる「ひそやかなささやき」の前には、クララの1871年の愛用楽器を使用して録音された原曲(『ユクンデの6つの歌曲』作品23から第3曲)がテープで流され、フェイドアウトするやピアノの生演奏が始まった。この演出も良かった。

しつこいようだが、今夜のコンサートは良かった。知られざる女流作曲家たちの佳作がひとつのドラマのように見事に表現され、飽きることが決してなかった。それぞれの演奏も上々。

6 COMMENTS

雅之

おはようございます。

素晴らしいコンサートに出会えてよかったですね!

このところ、ファニーやクララなど、女流作曲家を採り上げた企画の演奏会が増えつつありますよね。嬉しい傾向です。

偶然ですが今月私も、こんなコンサートに行きます。

名古屋マーラー音楽祭 特別企画
悪女?!それともミューズ?!
アルマ・マーラー前歌曲作品を聴く
http://www.munetsuguhall.com/concert/201206/20120616M.html

http://www.munetsuguhall.com/20120616M2.pdf

女流作曲家の曲を聴いていると、男女の快感曲線の差異を感じる瞬間がよくあります。

・・・・・・男性の快感は局部的で、その上昇下降の曲線は急峻。逆に女性の快感は部分と身体全体に及び、快感曲線はなだらかである・・・・・・「医学大辞典」より

音楽の快感とセックスの快感は、無意識の領域では根源が同一ですから、これも当然ですね。

返信する
岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
これまた羨ましい企画ですね。
アルマは悪女でもありミューズでもあります。僕もすべてを包み込む(飲み込む?)天才の作品をライブで触れてみたいです。

>男女の快感曲線の差異を感じる瞬間がよくあります。
>音楽の快感とセックスの快感は、無意識の領域では根源が同一

同感です。
昨日の「愛の春」抜粋やクララのシューマンへの前奏曲を聴いてそのことを痛感しております。
シューマン夫妻も一対だったんだなと。
差異というのは互いが互いを埋めるためにあるものですね。
互いのぶつかりがなくなった瞬間に「美」が生まれるように思います。

返信する
木曽のあばら屋

こんにちは。
ファニー・メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲は一度生で聴きたいものだと
かねがね思っています。
作品1-1と作品10-5の歌曲を組み合わせるとは、
なかなかこ心憎いプログラムですね。

返信する
岡本 浩和

>木曽のあばら屋様
こんばんは。
ファニーのトリオが全曲でなかったのが残念ですが、後半2つをまずは聴けただけでも幸せでした。
同じくいつか全曲を聴いてみたいですね。

>作品1-1と作品10-5の歌曲を組み合わせるとは、
なかなかこ心憎いプログラムですね。

おっしゃるとおりです。武蔵野音大のプロデュース力に脱帽です。

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