ロベルト・シューマンを考える上で歌曲は避けて通れないが、残念ながら現時点で彼の「歌」について言及する力量、あるいは術を僕は持たない。300曲近くに及ぶ作品をひとつひとつ具に研究し、いくつもの演奏で聴き比べ、そしてできれば詩人について追究してからだといろいろと書けるかなと今は思っている。一体いつになることやら(そんなことを言いながら少なくともこの数年で1度か2度はブログ記事にしている。でも「内容」はまったくない)。
ただし、そのことは何もシューマンに限ったことではない。シューベルトだってメンデルスゾーンだって、あるいはベートーヴェンやブラームスについても彼らの他の諸作に比べ、「歌」についてはこれまで意識して避けてきた。いや、少なくとも10代や20代の頃は「リート(ドイツ歌曲)」というものにあまり興味を持てなかったという方が正しい。
どうしても詩の内容から入らないとその音楽は理解できないだろうから。だから、僕にはとても高いハードルだった・・・(たった今、後ろで流れているのはハイネの詩によるリーダークライス作品24やケルナー歌曲集作品35が収録されたフィッシャー=ディースカウ盤。エッシェンバッハの伴奏が実に知的でかつ官能的で・・・。純粋に「とても美しい」と心は動かされる)。
少し考えた。
「シューマンの指」で採り上げられていたけれど、ロベルトが好んだベートーヴェン作品は作品54と作品106だったらしい。「ハンマークラヴィーア」は誰もが認める大傑作なので即理解したが、「ワルトシュタイン」と「熱情」に挟まれる小さな作品54とは・・・。そういえばベートーヴェンの第4交響曲を「二人の北欧神話の巨人の間にはさまれた美しいギリシャの乙女」と評したほどだから、そういう可憐な作品に惹かれる「癖」があったのかも・・・。
実際、楽聖が亡くなった翌年にシューマンはライプツィヒ・ゲヴァントハウスで開催されたベートーヴェン・フェスティバルで少なくとも第1番と第4番を除く(よりによって!)7曲をすべて聴き、とりわけ第2番と第9番に感動したよう・・・。
マタチッチ最後の来日公演の実況録音。僕は・・・、残念ながらテレビで観ていた(無念)。
ベートーヴェン:
・交響曲第2番ニ長調作品36(1984.3.14Live)
・交響曲第7番イ長調作品92(1984.3.23Live)
ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮NHK交響楽団
いやはや豪快で骨太のベートーヴェン。そして解釈の若々しいこと!
録音で聴き、そして映像でも何度も観ているのに、第2交響曲の最初の和音からやっぱり衝撃を受ける。おそらくシューマンもこの作品に冒頭から魅了されたことだろう。
ハイドンやモーツァルトから受け継ぐ保守性と、ベートーヴェンらしい革新が共存する、そういう意味では唯一無二の音楽。指揮棒なしで腰を振り振り踊るように音楽を作り出す老マタチッチの姿が脳裏に蘇り、心躍る旋律が明滅する。真に傑作!
僕はラルゲット楽章が殊の外好き。何とも爽やかで温かく。ビゼーが「カルメン(ハバネラ)」で、ショスタコーヴィチが第5交響曲で使った「ソドレミ♭」音形がここでも使われる。
(少し逸れるけれど、「ソドレミ♭」というのは人の感性に訴えかける力がとても大きいのだろう、ヒット曲でも数多くある。サザンの「チャコの海岸物語」、同じくサザンの「TSUNAMI」、「千の風になって」、陽水の「心もよう」、藤井フミヤ「TRUE LOVE」など。興味深い)
すべての練習を終えたマタチッチの挨拶。
「実に素晴らしい、充実した3週間でした。もし、本当にもしまた機会があったら自分はまたN響を振りたい、ダンケ!!」
素敵だ。
ところで、この3月23日(土)、昨年に引き続き八王子市の市民自由講座に出講する。
テーマはベートーヴェン。
市民自由講座「クラシック音楽入門講座&ミニコンサート~苦悩を乗り越え傑作の森へ:ベートーヴェン入門~」
・日時:2013年3月23日(土)14:00~16:00
・会場:八王子市生涯学習センタークリエイトホール
・定員:170名
ということで、そろそろまたベートーヴェンに戻らねば・・・。