マキシム・ヴェンゲーロフ ヴァイオリン・リサイタル@人見記念講堂

これほどまでに聴く者を幸せにするヴァイオリニストって過去にいたのだろうか?
少なくとも、僕が知る中で最もホスピタリティに富み、全身全霊で音楽に没入し、かつ聴衆に決して媚びることなく慕われる人間性を持った音楽家を初めて見た。
人生初のマキシム・ヴェンゲーロフのリサイタルを体験しての率直な意見。
都合4曲に及ぶアンコールの後のスタンディング・オヴェイション、そして終演後のサイン会に集まった皆さんの様子を伺うだけで、この天才の人となりが肌身を伝って感じられる。いやあ、参った。肩を壊しての、一時期引退を騒がれたほどの身体で持って、完全復活し、かつてとは全く印象の異なる演奏を繰り広げたヴェンゲーロフその人にまずは賛辞を贈ろう。そして、その彼にぴたっとくっつけ、まるで一つの生命体のように一体となったゴランのピアノの妙味。さらには質の高い聴衆。
2012年10月6日は奇跡の起こった、真に記念すべき日として忘れ難いものになる。

マキシム・ヴェンゲーロフ ヴァイオリン・リサイタル
2012年10月6日(土)18:30開演
昭和女子大学人見記念講堂
マキシム・ヴェンゲーロフ(ヴァイオリン)
イタマール・ゴラン(ピアノ)

・J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV1004
・シューベルト:ヴァイオリン・ソナタイ長調D574作品162
・ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調作品47「クロイツェル」
アンコール~
・ブラームス:ハンガリー舞曲第1番
・ヴィエニャフスキ:スケルツォ・タランテラ
・マスネ:タイースの瞑想曲
・日本唱歌「ふるさと」

ヴェンゲーロフの表現は地に足の着いた、とても安定したものだった。
バッハのパルティータはどちらかというと遅めのテンポで一貫し、それでいて全くだれることなく最後まで一気呵成に進む。何と柔らかい音か。肌触りの堪らない弱音部の静けさと、フォルティッシモの強烈な自己陶酔。確かな技術をベースに、確信に満ちたバッハの魂がたった一挺の楽器によって明らかになる。
シューベルトになると、まさに二重奏というタイトル通り、ゴランのピアノの上手さがさらにヴェンゲーロフのヴァイオリンを引き立てる。何という伴奏!!ほとんど「永遠」を感じさせる音楽。
休憩後の「クロイツェル・ソナタ」はもちろん白眉。ここでは演奏する二人が完全にひとつとなっているのを見た。
このソナタの献呈者であるクロイツェルが実際に使っていたというストラディヴァリウス・クロイツェルにベートーヴェンの霊魂が憑依したかのような三位一体。
40分近くに及ぶこの大作があっという間に駆け抜ける。
しかも、このソナタはヴェンゲーロフの自家薬籠中のものなのだろう、完全に暗譜で弾かれたその演奏は心底堂に入るものだった。
さらにアンコール。
僕の友人・知人が何人もこの舞台を目のあたりにしたが、ほぼ全員に一致していたことが「涙していた」こと。すごい・・・。何という「タイース」、何というヴィエニャフスキ。


7 COMMENTS

みどり

タイスまで堪えたのに、ラストに「故郷」とは…!

生涯忘れないであろう一夜になりました。
そこにいられたこと、その全ての縁に感謝します。

返信する
岡本 浩和

>みどり様
昨晩はご来場ありがとうございました。
ご丁寧にメールまでいただき感謝いたします。
それにしてもすごい時間でしたね。
あの会場はおそらく2階席の方が良い音がするように思います。多分ベスト・シートだったのではないでしょうか?

僕は絶対音感がないので何ともそこまではわかりかねたのですが、みどりさんの具体的なコメントを見て、軸のしっかりした安定感のある音色だと感じる理由がよくわかりました。

>その全ての縁に感謝します。

すべてはあの日のラインベルガーの記事に始まってますね!(笑)
実はあのCDをいただいたWさんも会場にいらしていただいてました。
みどりさんの近くに座ってらしたはずです。

返信する
kumiko

私は5日(京都)と6日(東京)公演の両方を聴きに行きました!本当に夢のような2日間。素晴らしい演奏会でした。来年も楽しみです!

返信する
岡本 浩和

>kumiko様
2日とも行かれたとは羨ましい限りです。
素晴らしいリサイタルでしたよね。
来年以降が楽しみでなりません。

返信する

kumiko へ返信するコメントをキャンセル

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む