ヴォルフガング・サヴァリッシュ氏が亡くなられた。とても思い出深い指揮者。
僕が彼の実演に触れたのは主に1980年代。ある意味NHK交響楽団の「黄金時代」と言われる時期で、オトマール・スウィトナーやズデニェク・コシュラー、あるいはヴァーツラフ・ノイマンがいまだ健在で毎月のように名演奏を聴かせてくれていたあの古き良き時代。
印象に残っているのは1985年5月17日の第963回定期演奏会のブラームス第3&第4交響曲。あれは痺れた。交響曲第4番第3楽章のトライアングルがあんなにくっきり「聴こえた」体験は初めてだったのでそれだけでぶっ飛んだ(笑)。あのシーンは今も脳裏に残る。光景も音も・・・。
サヴァリッシュ氏は独墺系の音楽を得意とされていたからベートーヴェンもマーラーももちろん良かった。でも、あのブラームスは空前絶後の演奏だったと言い切れる。
既に処分しているのでその時の刊を確認することはできないのだけれど、1983年のブラームス生誕150年祭ということで「音楽現代」にサヴァリッシュ氏のインタビューが掲載されており、確かその時にN響で近いうちにブラームスを演ると書かれていて、とにかく絶対に行かなければと決意して詣でたように記憶する。
素晴らしかった。あの広すぎるNHKホールで、ブラームスの決して煌びやかとは言えないいぶし銀の音楽がキラキラと光るように奏でられるのだから堪らない。
追悼ということでブラームスのドイツ・レクイエムを聴く。
この音盤にも思い入れたっぷり。おそらく僕のCD蒐集初期のもの(初めて購入したワルターの「大地の歌」から数えて10番に満たないものかも)。ちょうどその定演と同じ頃に聴いて感動した。今聴いても色褪せない。
この録音、何と「カール・リヒターの思い出」に捧げられている。
第1楽章の冒頭の、地から生まれ出づる合唱から金縛り状態。これはもちろんブラームスの作曲の力に依るのだが、サヴァリッシュのいかにも自然体の棒さばきが拍車をかけているように僕は思う。これほど安心して聴ける「ドイツ・レクイエム」はない。
第3楽章が凄い。壮大な音絵巻。
正しい者の魂は神の御手にあって、いかなる責苦も彼らに届くことはない。(旧約続篇ソロモンの智慧;第3章第1節)
フィルハーモニー1985年5月号には「今月の出演者」というトピックで今は亡き三浦淳史氏が寄稿されている。
(前略)その後ウィーンに次いでミュンヘンで多忙な指揮活動をはじめたサヴァリッシュが久しぶりにイギリスのオーケストラをふったのは、1968年のことであった(当時フィルハーモニアは「ニュー・フィルハーモニア」と改称されていたが、サヴァリッシュは同楽団から招かれたのである)。次に来演したのは、1981年11月で、サヴァリッシュは元の名前に戻ったフィルハーモニアでブラームス・ツィクルスと「ドイツ・レクイエム」を振ってロンドンの音楽公衆と批評陣から絶大な支持を受けた。いらいサヴァリッシュはほとんど毎シーズン同楽団に招かれており、ロンドンの音楽公衆の尊敬を集めている。(後略)
サヴァリッシュのブラームスはやっぱり凄いんだ。
サヴァリッシュは僕の中では初期ロマン派(シューマン、シューベルト、メンデルスゾーン)の貴重な声楽曲を精力的に取り上げた事が最大の功績だと思います。後は、やはりシュトラウスとワーグナーのオペラですかねぇ。
マーラーなんて得意だったんですか?
私も残念でなりません、リヒャルト・シュトラウス受容に熱心で、市川猿翁演出の「影のない女」は素晴しい舞台でしたね。
>ふみ君
マーラーが得意かどうかはわからないなぁ。少なくとも僕が聴いたマーラーはとても良かったということです。
初期ロマン派の貴重な声楽曲というのはそのとおりね。ふみ君推薦の「エリア」も最高だと僕も思います。
>畑山千恵子様
「影のない女」は観ておりません。さぞかし素晴らしかったんでしょうね。
こちらの訃報にはマーラーの交響曲に関する行があります。
http://www.philly.com/philly/blogs/artswatch/Wolfgang-Sawallisch-1923-2013.html?jCount=2&#comments
サヴァリッシュご自身が英語で話されたものかどうかがわからないのですが。
>みどり様
ありがとうございます。
なるほど、これを読むとサヴァリッシュはマーラーを理解し切れなかったようですね。
あの件の文言だけでは判断は難しいですが。
20年以上経ちますが、少なくとも僕が聴いたマーラーは素晴らしかったです。
http://classic.opus-3.net/blog/?p=2419
はじめまして、小平と申します。
時々こちらのサイトを訪れては岡本さんの感性に触れ生気をいただいています。
サヴァリッシュが亡くなられたこと、さみしいですね。
はじめて彼のナマに接したのは1974年だったか、バイエルン国立歌劇場(その時はミュンヘン・オペラと書かれていた)とともに来日しての「ワルキューレ」でした。この時ワーグナーの素晴らしさを知り、サヴァリッシュも大好きになってその後何度かN響との演奏会に通いました。
そして畑山さんも書かれている「影のない女」。やはりバイエルン国立歌劇場の舞台、演出市川猿之助。歌舞伎”風”な衣装には違和感があったけれどカラフルでメルヘンチックな舞台は印象的でした。これと前後して、ほとんど同じメンバー(?)によるノーカット全曲版というCDが出ており、これを買って曲の予習をしたのですが、そこで終幕の皇后によるメロドラマ(語り)を知ったのです。どうしてこんなに素晴らしい部分が通常カットされるんだろうか、と。
最後にN響との、特別演奏会だったか、ブリテン「戦争レクイエム」。曲と演奏の凄さにただ身を固くして聴き入っていたことを懐かしく思い出します。
サヴァリッシュの惜別に。長文になり失礼しました。
>小平聡様
こんにちは。
70年代から80年代のクラシック音楽界と言うのは今とはまた違って素晴らしかったですよね。
外国のオペラなんていうのも大変貴重でしたし。
それにしても猿之助演出の「影のない女」は観たかったです。
ただ、「影のない女」自体それほど綿密に聴き込んでいないので終幕のメロドラマ云々についてはコメントできません。残念ですが。なるほど「戦争レクイエム」も聴かれたのですね!素敵なご体験羨ましい限りです。
今後ともよろしくお願いいたします。