振付家にとってダンサーは、自身の思念を具現化するための手段の一つであり、片腕だといっても言い過ぎではない。ダンサーがテクニカルに有能であることはもちろん持って生まれたセンス、才能、人間性、すべてが舞踊そのものに投影される様子に、その役割の重要性をあらためて思う。
短い断片ではあるが、ジョルジュ・ドンが生涯にわたって踊り続けたベジャール作品が、まさに彼のために創造されたものであることを証明する映像集(わずか11分弱)。BGMに採用されているのが、映画「愛と哀しみのボレロ」での、ヴォカリーズ付きのボレロというのが個人的には今一つなのだけれど(せっかくなのでその時々の音声をうまくカット、アレンジしてそのまま使用していただきたかった)、ほぼ年代順に並べられたドンの踊りは壮観(映像の良し悪し、乱れは多々あるけれど)。最晩年に幾度か実演を観た、あのときの感動が蘇る。
・ロメオとジュリエット(1966)
・朝の歌(1967)
・ディヴェルティメント(1964)
・ダンサー(1968)
・ボードレール(1968)
・エイモン公の4人の子ら
・主なき槌(1968)
・サロメ(1986)
・愛の手紙(1969)
・ニジンスキー・神の道化(1971)
・ロメオとジュリエット(1966)
・ペトラルカの勝利(1974)
・アクア・アルタ(1975)
・第九交響曲(1967)
・ゴレスタン、あるいは薔薇の園(1973)
・想像のモリエール(1976)
・主なき槌(1968)
・ペトルーシュカ(1977)
・詩人の恋(1978)
・死が私に語りかけるもの(1978)
・ボレロ(1979)
・エロス・タナトス(1980)
・魔笛(1981)
・アダージェット(1981)
・ライト(1981)
・ガルボの幻想(1981)
・わが夢の都ウィーン(1982)
・火の鳥(1970)
・勝利者(1969)
・マリオネットの生と死(1983)
・未来のためのミサ(1983)
・1789・・・そして今(1989)
・コンクール(1985)
・旅(1968)
・ニジンスキー・神の道化(1990)
・バンドネオンの踊り
不世出のダンサー、ジョルジュ・ドンのダンスは文字通り愛と死(エロス・タナトス)を表現したものであり、その死から30年以上を経過した今でも、官能的な、しかしあくまで中性的な身体の動きに言葉を失うほど(彼はベジャールの望む両性具有者だったのだろうか)。
僕が初めて生のジョルジュ・ドンを観たのは1989年のことで、もはや全盛期のキレは無かったのだけれど、間近で観たそのダンスの衝撃は忘れられないもの。ひょんなきっかけで、楽屋裏にお招きを受け、モーリス・ベジャールに会うことができたのも幸運だった(残念ながら生のドンに会うことは叶わなかったけれど)。森下洋子との「ライト」もまた素晴らしかった(あるいはレーザーディスクで観た、ピエール・アンリの電子音楽をバックにドンが躍る「旅」の衝撃!!)。