ミハル・ネステロヴィチ指揮バルセロナ響 マイアベーア 歌劇「ユグノー教徒」から第3幕「ジプシーの踊り」ほか(2012.7録音) 

「対話」の中で、オットー・クレンペラーは比較的流暢に本音を語っている。
最晩年になって、若き日のことをどれだけ鮮明に覚えているのか、あるいは多少の記憶違いもあろうが、それでもそのときの感情や嗜好までも明確に言葉にできるのだから素晴らしい。

プラハには3年いました。最初の年にはほとんどオペレッタばかり指揮しました。『メリー・ウィドウ』と『ワルツの夢』です。『ワルツの夢』はその頃ものすごい人気があったのです。それから格があがって、『マルタ』や『カヴァレリア・ルスティカーナ』や、とくにマイヤベーアの『ユグノー教徒』をやりました。『ユグノー教徒』はなぜ今日上演されないのでしょう。第4幕は比類のないほどすばらしいものです。『さまよえるオランダ人』や『ローエングリン』もやりました。しかし1908年の春、かなりひどい頸部リンパ腺炎にかかり、手術をうけなければならなかったのです。劇場へもどったとき、わたしはまだ健康がすぐれませんでした。ノイマンはわたしを一目みるなり、経費を全額出して、4週間メラノに保養に行かせてくれました。わたしにとって一生忘れられない温情あふれる計らいでした。
ピーター・ヘイワース編/佐藤章訳「クレンペラーとの対話」(白水社)P66-67

当時のカペルマイスターはとても忙しかったし、それにあらゆるオペラを振らなければならなかったことを考えると、そのときに身に着けた知識や体験は、後々どれほど役に立ったろうかと思わせる。(もちろん今も欧州の歌劇場での仕事は同様に大変だろうが)

クレンペラーが言うように、マイアベーアの歌劇は今ではなかなか舞台にかからない。
それに、どのオペラについても僕は全曲を正直聴いたことがない。抜粋で楽曲を聴いても、心に染み入る音楽に出会わなかったことも影響あるだろう。あるいは、若い頃からワーグナーの音楽に浸り、同時にワーグナーの著作に結構深くまで触れていたせいか、ワーグナーが茶化すマイアベーアを随分低く見ていたこともあった。(本当に若気の至りで恥ずかしくなるくらい)

ジョルジュ・ドンの生涯 46のバレエ断章 ネステロヴィチ指揮バルセロナ響 マイアベーア オペラからのバレエ音楽集(2012.7録音) アルフレード・クラウスのオーベール「ポルティチの唖娘」を聴いて思ふ アルフレード・クラウスのオーベール「ポルティチの唖娘」を聴いて思ふ ネステロヴィチのマイアベーア「オペラからのバレエ音楽集」を聴いて思ふ ネステロヴィチのマイアベーア「オペラからのバレエ音楽集」を聴いて思ふ

そんな中、ジャコモ・マイアベーアをもう少しきちんと聴いてみようと思ったのは、モーリス・ベジャールが「エロス・タナトス」だったかで、マイアベーアのオペラからの楽曲を採用していたからだった。1980年代も終わりの頃で、二十世紀バレエ団がモーリス・ベジャール・バレエ団に改称していた頃だった。ジョルジュ・ドンは健在だった。幸運なことに、僕はドンの「ボレロ」を2回見た。いずれも東京文化会館での舞台だったが、今でもそのときのことは忘れられないくらい衝撃だった。

ジョルジュ・ドン 二十世紀バレエ団 ラヴェル ボレロ(1982) ジョルジュ・ドン 日本最後の「ボレロ」(1990.4.26Live)を観て思ふ ジョルジュ・ドン 日本最後の「ボレロ」(1990.4.26Live)を観て思ふ

いつぞや仕入れたマイヤベーアのオペラ抜粋音楽を収録した音盤。
偶に妙に聴きたくなるところは、バレエの躍動や歓喜を見事に表現しているところか、否、逆だった。ベジャールが採用するだけの音楽の歓びがここにはあるのである。
「ジャコモ・マイアベーア万歳!」と叫びたいところだ。

マイアベーア:オペラからのバレエ音楽集
・歌劇「ユグノー教徒」(1836)
 第3幕:ジプシーの踊り
・歌劇「悪魔のロベール」(1831)
 第2幕:5人の踊り
 第3幕:尼僧たちのバレエ
・歌劇「北極星」(1854)からダンス音楽
 第2幕:ワルツ
 第2幕:騎士たちの歌
 第1幕:祈り
 第3幕への間奏曲
・歌劇「預言者」(1849)
 第3幕:スケートをする人々のバレエ
・歌劇「アフリカの女」(1865)
 第4幕:インドの行進
ミハル・ネステロヴィチ指揮バルセロナ交響楽団(2012.7.3-6録音)

当時持て囃された理由は、ロッシーニを代表とするイタリア歌劇様式と、モーツァルトを代表とするドイツ歌劇様式の折衷であり、絢爛豪華なフランス歌劇の本となったことにあるようだ。確かに、一度聴いたら忘れらない旋律と、内側から湧き上がる「大歓喜」の様子が音楽ににじみ出ている点が素晴らしい。

ミハル・ネステロヴィチ指揮バルセロナ響の演奏は、正統派で踏み外すところなく、いかにも現代風の音を醸す。

春の陽気を感じる今頃に相応しい音楽たち。
乾杯だ。

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