グザヴィエ・ロト指揮都響第804回定期演奏会 ベートーヴェン「英雄」ほか

roth_tokyo_20160407500とても素敵なコンサートだった。

人間の歴史は戦争のそれだ。戦わずして歴史なし。そして、歴史なくして芸術なし。
1945年9月15日、アメリカ兵に誤って射殺されたアントン・ヴェーベルンの不幸。また、金の亡者と揶揄されながらも戦時を生き抜き、終戦直前に黄昏の祖国を思い、弦楽のための哀切の音楽を創造したリヒャルト・シュトラウスの後悔。さらには、ナポレオン・ボナパルトへの献呈を予定しつつも彼が皇帝に即位したことを受け却下、ベートーヴェンがただちに「英雄」交響曲として発表した事実。
すべては戦争の賜物といえる。もちろん戦争の裏には平和があるのだけれど・・・。
今宵はいわば「戦争と平和」について考えさせられるひと時だった。

「英雄」交響曲は前半2つの楽章の革新性に比して後半2つの楽章が弱いと一般的にいわれる。今夜のロトの演奏については・・・、もちろん第1楽章アレグロ・コン・ブリオも第2楽章「葬送行進曲」もチャレンジングで勢いのある演奏だったけれど、僕が一層惹かれたのは終楽章アレグロ・モルト。
特に、冒頭第2変奏でベーレンライター版独自の各パート独奏での閃きに満ちた、いかにも自然と一体化する音楽に感動。その後の木管群の応答も実に愉悦に溢れ、心に迫る演奏だった(鷹栖美恵子さんのオーボエの素晴らしさ!)。
何より最初から最後まで息もつかせぬ集中力と音楽の前進性!!ベートーヴェンはやはり大自然、大宇宙と一体化していたのだ。そして、そのことを意識的か無意識か、しっかり読みとり再現したグザヴィエ・ロトの類い稀なる力量。感動した・・・。

東京都交響楽団第804回定期演奏会Bシリーズ
2016年4月7日(木)19:00開演
サントリーホール
矢部達哉(コンサートマスター)
フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮東京都交響楽団
・シューベルト(ヴェーベルン編曲):ドイツ舞曲D820
・リヒャルト・シュトラウス:メタモルフォーゼン~23の独奏弦楽器のための習作
休憩
・ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」

アントン・ヴェーベルンの音楽はまるで子守歌。
あくまでシューベルトの衣装を借りたヴェーベルン独自の世界観。ロンド形式にアレンジされた「ドイツ舞曲」の優しい響きに胸がいっぱいになる。

黄昏のヨーロッパ。死してすべては変容する。とはいえ、魂は相変わらず自由。
フランソワ=グザヴィエ・ロトの精魂込めた指揮。そして都響の緻密な演奏。クライマックスに向けてすべてを削ぎ落とし、自らの心の内を赤裸々に、素直に語ろうとするリヒャルト・シュトラウスの真骨頂。長い間を置いてのコーダではベートーヴェンの「葬送行進曲」が引用される。破壊と創造はやっぱり「一」なのだ。

それにしても23人が一丸となって表現した「メタモルフォーゼン」は出色の出来。どの瞬間もまったく見逃せない。

3月12日、栄光のウィーン・オペラ座も、爆撃の犠牲になった。しかし5月1日からは、人類史上最悪の恐怖の時代が去り、凶悪極まる反税人たちによる12年間の獣性と無知と反文化の支配が終わった。この間、2千年かけて進化してきたドイツ文化が亡び、かけがえのない記念建造物や芸術作品が、軍隊の犯罪によって破壊されてしまった。科学技術が心底呪わしい。
(1945年5月付、シュトラウスのメモ抜粋)
山田由美子著「第三帝国のR.シュトラウス―音楽家の〈喜劇的〉闘争」(世界思想社)P216

シュトラウスの脳内に去来する感情こそが芸術。

 

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3 COMMENTS

岡本 浩和

>雅之様

フリッツ・ハーバーは功罪両面深い人ですよね。
僕たちは何事にも恩恵を受けながら、その一方で問題にも加担していることを考えると、人間の抱える問題に気が遠くなります。
いずれにせよ常に意識することが大切だと思います。

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岡本浩和の音楽日記「アレグロ・コン・ブリオ」

[…] 鮮烈! デイヴィッド・ジンマン指揮チューリヒ・トーンハレによるベーレンライター版の「エロイカ」を初めて聴いたとき、一番驚いたのは、終楽章アレグロ・モルト第2変奏で、ヴァイオリンもヴィオラもチェロも一人の奏者に演奏させていたところ。そういえば、3年前に聴いたグザヴィエ=ロト指揮都響定期の「エロイカ」もまったく同じ解釈だったと記憶する。 […]

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