ヴェンゲーロフ・フェスティバル2013 ベートーヴェン&ブラームス・プログラム

アンコールで弾かれたバッハのサラバンドの極めつけの美しさ(涙)。
終始音量を絞ったその演奏は、ビロードのような肌触りの、何とも月並みな表現しかできないけれど、とにかくマキシム・ヴェンゲーロフの凄さが凝縮されたものだった。あの最弱音の音色、それでいて芯のしっかりした音。あれが聴けただけで本望・・・。

協奏曲を「判断する」のはとても難しい。オーケストラの調子とソリストとの相性と。ましてや今夜のプログラムのように3人の独奏者がいるとなるとなおさら。それにホールの音響の問題もある。すべての条件が完璧に揃うというのはなかなか稀。とはいえ、そういう悪条件を乗り越えるケースももちろんある。演奏者の魂が音楽そのものと一体化して音楽しか感じられない瞬間が見えた時にそういうことが起こる。

今夜で言うなら・・・、ブラームスのコンチェルトの第1楽章後半。ようやくエンジンがかかってきたのはカデンツァ直前から。どうにもオーケストラの音調とそぐわない違和感が僕にはあったのだけれど、おそらくヴェンゲーロフ自作であろう、あの特別なカデンツァを奏したあたりから「何か」が変わった。管弦楽が静まり、ただ一挺のヴァイオリンが奏でる、あの激しくも切ない音楽は聴く者を金縛りにする。コンチェルトのいくつものメロディや断片をつなぎ合わせながら、しかも最高のテクニックでもって「聴かせる」業は健在。続く第2楽章の、むせび泣くような哀愁に満ちた音楽は、当時既に名声成ったヨハネスの安寧のメッセージ。ここでもマキシムの「独奏」は柔らかく光っていた。そして終楽章。この勢いのあるハンガリー風音楽を前のめりで弾き込むヴェンゲーロフの姿が印象的。音楽ももちろん活きていた・・・。

ヴェンゲーロフ・フェスティバル2013
6月10日(月)19:00開演
ベートーヴェン&ブラームス・プログラム
BUNKAMURAオーチャードホール
・ブラームス:大学祝典序曲作品80
・ベートーヴェン:ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための三重協奏曲ハ長調作品56
休憩
・ブラームス:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品77
~アンコール
・J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV1004~サラバンド
マキシム・ヴェンゲーロフ(ヴァイオリン)
宮田大(チェロ)
清水和音(ピアノ)
広上淳一指揮東京フィルハーモニー交響楽団

前半のトリプル・コンチェルト。マキシムの強い要望で変更されたそうだが・・・、やっぱり決して面白い曲でない。僕はこれまでの人生で何度かこの作品を実演で聴いているがこれぞ名演奏というものに出逢ったことがない。おそらくホールの影響大だと想像する。そもそも、この音楽が作曲された1803年当時の状況、あるいは誰のために何の目的で書かれたのかを考えると自ずと答は出る。非公式の初演はパトロンの一人であったルドルフ大公邸で行われ、しかもピアノ・パートはその大公が演奏することを想定して書かれたものだから同時期に書かれた諸作(「エロイカ」交響曲、「ワルトシュタイン」ソナタ、あるいは「熱情」ソナタ)に比較して技術的にも音楽的にもかなり見劣りがする。きっと、もっと小さな室内楽用のホールで、しかも人数を絞った室内オーケストラをバックに、百戦錬磨のピアノ・トリオが協演したらば、途轍もない名演奏になるだろうにと、僕はいつも空想する。

今夜のベートーヴェンは冒頭から音量抑え気味。でないと独奏楽器が埋もれてしまうから。特に、チェロは厳しかった(宮田氏の音量はもっと大きく迫力あるものだと思っていたが、どうにも音が拡散していた。やっぱりホールのせい?)。パフォーマンスという意味では、豪華で目の保養になるのだけれど・・・、残念ながら独奏の旋律が時折埋まってしまうことがとてももどかしかった。

そのことは休憩後のブラームスを聴いて一層確信した。オーケストラは冒頭から爆発(笑)。ヴェンゲーロフは負けじと渾身の演奏を披露。願わくばソロを切りとって聴きたかった・・・。それが率直な僕の感想。
そして、今僕の脳裏に蘇るのはあの「サラバンド」。
巨大なオーチャードホールの、決して音響の良くないあのホールに、ものすごく大きな音で響いたあの美しい「弱音」。
衝撃・・・(これでいよいよ明後日のリサイタルが楽しみになった)。

 

 


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3 COMMENTS

アレグロ・コン・ブリオ~第5章 » Blog Archive » トリプル・コンチェルトへの空想

[…] コンサートのプログラム内容が変更されることはよくあることだが、大抵の場合は演奏者の一方的な都合によるものだ。今でこそなくなったが、若い頃作品目当てにチケットを手にいれたのに、演奏楽曲が変更になり、悔しい思いをしたことが何度もあった。 過日、ヴェンゲーロフ・フェスティバルでブラームスの二重協奏曲がベートーヴェンの三重協奏曲に変更になった(お蔭でオール・ブラームス・プロでなくなったのだが)。そのことにがっかりしたファンはそれなりにいたようだが、どちらかというと僕もその一人。これまで実演でも音盤でも「良い音楽だ」と感心したことがなかったものだから。しかしながら、ヴェンゲーロフの演奏そのものは良かったはずだ(「はずだ」というのはともかく会場が難点で、よく音楽が聴こえなかったこともあり判断いたしかねたということ)。 […]

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