プラハのムラヴィンスキー「弦チェレ」を聴いて思ふ

shostakovich_bartok_mravinsky_in_prague見事に正確で、強烈なリズムの正体は何なのか?
それでいて無機的にならず、表面上は冷徹であっても人間味を感じさせるその奥義はどこにあるのか?
そして、オーケストラをまるで自分の手足のように操る技術はどうやって培われたのか?

答をくれたのが、次のゲンナジー・ロジェストヴェンスキーの言葉だった。

ムラヴィンスキーのリズムは、言葉のメトロノーム的な理解の枠を遥かに超えているように思えます。そのリズムは音楽の拍動、音楽の生の息づかいから生まれて来るのです。エフゲニー・アレクサンドロヴィチがリハーサルで、ショスタコーヴィチの交響曲第8番の有名なトッカータの冒頭を何度も繰り返し練習していたことが思い起こされます。アンサンブル、ダイナミズム、テンポのどれ一つをとっても全く正確に演奏されているように思えたものです。でも指揮者は楽章の出だしを何度も何度も繰り返すのです。そしてついに、音楽の拍動と正確に一致した新しい音楽が響き出したのです!
ヴィターリー・フォミーン著河島みどり監訳「評伝エフゲニー・ムラヴィンスキー」P177)

ショスタコーヴィチの作品に限らず、ムラヴィンスキーがレパートリーとした作品は彼の類稀な技術によりすべて「音楽の拍動と正確に一致した新しい音楽」と化す。そう、音楽そのものと一体になるパルス。そのことをはっきり確かめることができる作品がバルトークの「弦楽器、打楽器、チェレスタのための音楽」だ。鮮血が噴き出すかのような鋭い切れ味と、内燃する魂の咆哮が聴く者の心も身体も切り刻む。録音ながらいつどんな音楽にも衝撃が走る。もし実演を聴けていたならば、僕は気絶していたのではなかろうか・・・。

1967年の「プラハの春音楽祭」での実況録音。

エフゲニー・ムラヴィンスキー・イン・プラハ
・ショスタコーヴィチ:交響曲第5番ニ短調作品47(1937)(1967.5.26Live)
・バルトーク:弦楽器、打楽器、チェレスタのための音楽Sz.106(1936)(1967.5.24Live)
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

チェコ・ラジオ放送の音源。多少音が籠り気味だが、鑑賞にはまったく問題ない。というより演奏が始まってものの30秒ほどでそんなことがどうでも良くなる。ショスタコーヴィチ第5の第3楽章ラルゴにおける祈りの表情は相変わらずで、クライマックスに向けて弦楽器のすすり泣くような響きと、その後に続く木管の静かな調べとの対比が見事。何という悲しみ!たとえそれが二枚舌的偽りの涙であったとしても、この音楽を享受するものは誰でももらい泣きをするのでは・・・。
そして、怒涛の終楽章が訪れる・・・。

バルトークの方は・・・、有名な1965年モスクワ・ライブより一層造形が引き締まり、緊張感に満ち、テンポも速め。それでいて一糸乱れぬレニングラード・フィルのアンサンブル!!特に、マイクのセッティングの関係なのか、それともムラヴィンスキーの解釈がそうなのか、ティンパニのあまりにも濃厚な響きに僕の心が思わず感応する。
第2楽章アレグロのコーダに向けて疾走する弦楽器群と打楽器の応酬に身震い!!!終楽章アレグロ・モルト冒頭の打楽器の一撃に続く弦楽器の何というエロティックな表情!!!
それにしても、終演後の拍手喝采が編集カットされているのが何とももどかしい。その前後の聴衆の様子(咳払いも含め)もひっくるめて味わえるというのがライブ録音ならではなのに・・・。

ところで、ムラヴィンスキーの4人目の妻であり、フルート奏者のアレクサンドラの言葉。

それまで私は10年間いろいろな指揮者のもとで演奏してきたけれど、ムラヴィンスキーの棒のもとでは何とも軽やかに演奏することができ、しかも魔法にかけられたように彼の生み出すアトモスフェアに引きこまれていったわ。それは奇跡でした。3次試験まできて、私は是が非でもムラヴィンスキーのオーケストラに入りたいと胸が焦がれるほど切望したのです。
河島みどり著「ムラヴィンスキーと私」P145)

1962年4月、アレクサンドラ・ヴァヴィーリナはレニングラード・フィルに正式に加入する。団員募集のポスターを見てから1年後のことだったらしい。

 


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2 COMMENTS

畑山千恵子

ムラヴィンスキーにこんなエピソードがあったとはびっくりしました。

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