ダニエル・ホープ:ヨーゼフ・ヨアヒムを讃えて「ザ・ロマンティック・ヴァイオリニスト」を聴いて思ふ

daniel_hope_romantic_violinist032コンセプトは素晴らしい。しかし、どうにも散漫とした印象が免れない。おそらく管弦楽を伴奏にした楽曲とピアノを伴奏にした作品が無意味に混在しているからだろうか。あるいは、ヨーゼフ・ヨアヒムを軸にしつつも選ばれた作品がそれぞれに個性が異なっており、いまひとつ統一感に欠けるからだろうか。

久しぶりにマックス・ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番を聴いた。
情熱的だけれど、どこかクールなダニエル・ホープの独奏ヴァイオリンに、僕たちはつい冷静になる。しかし、サカリ・オラモ指揮によるロイヤル・ストックホルム・フィルのクライマックスにおける熱を帯びた響きの充実度はいかばかりか!
続く第2楽章アダージョの、感謝の念を湛えた瞑想的音楽にあらためて心動かされる。ここでのホープの、入念に思いを込めた節回しが素晴らしい。同様に、粘る管弦楽の何という官能の響き!
第3楽章アレグロ・エネルジコの、ホープの自信と確信に満ちた独奏に心打たれる。それにしても冒頭第1主題に聴かれる浪漫的な旋律は幾度聴いてもパッショネートかつ愉悦に溢れ、耳にするたび釘付けになる。

ダニエル・ホープ~ヨーゼフ・ヨアヒムを讃えて「ザ・ロマンティック・ヴァイオリニスト」
・ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調作品26
・クララ・シューマン:ヴァイオリンとピアノのためのロマンス作品22-1
・ブラームス:F-A-Eソナタ~スケルツォハ短調
・ヨアヒム:ヴァイオリンとピアノのためのロマンス作品2-1
・ブラームス:ヴァイオリンと管弦楽のためのハンガリー舞曲第1番ト短調(デュパン編)
・ヨアヒム:ヴァイオリンと管弦楽のためのノットゥルノ作品12
・ブラームス:ヴァイオリンと管弦楽のためのハンガリー舞曲第5番ト短調(デュパン編)
・シューベルト:ヴァイオリンとピアノのための「水の上に歌う」D774(ホープ編)
・ブラームス:メゾソプラノ、ヴィオラとピアノのための「聖なる子守歌」作品91-2
・ドヴォルザーク:ヴァイオリンと管弦楽のためのユモレスク作品101-7(ワックスマン編)
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン、ヴィオラ)
サカリ・オラモ指揮ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団
セバスティアン・クナウアー(ピアノ)
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(メゾソプラノ)
ベンクト・フォシュベリ(ピアノ)(2010.8録音)

クララ・シューマンのロマンス変ニ長調作品22-1の何という哀感!クララの作曲家としての力量がこれほど如実に示された作品はなかろう。それに、哀しみを湛えたホープのヴァイオリンが輪をかける。このアルバムはクララのこの作品を聴くためだけに在ると言っても言い過ぎでないほど。セバスティアン・クナウアーによるピアノ伴奏がこれまた謙虚にヴァイオリン独奏を引き立て、それでいて存在感を失わない。

ブラームスのF-A-Eソナタからスケルツォハ短調は、ホープらしい雄渾で情熱的な演奏。それにしてもここでの力強いピアノは主張し過ぎず、とはいえ決して物足りなくもなく、独奏ヴァイオリンを見事にサポートする如く。トリオの、優しい旋律と音色こそホープの真骨頂。

さらに、ヨアヒムによるロマンス作品2-1。さすがに様々な作曲家のヴァイオリン作品にアドバイスしてきただけあり、作曲家としてのこの人の才能も(少なくともヴァイオリン曲に関しては)聴きどころ。ブラームスよりは一層開放的な音調で、メンデルスゾーンを思わせる。

そして、ヨアヒムのノットゥルノ(夜想曲)の夢見るような旋律美が、この稀代のヴァイオリニストのメロディ・メイカーとしての資質を証明する。ホープの先鋭的なヴァイオリン独奏と柔和な管弦楽の響きのコントラストに恍惚となる。

ホープ自身のアレンジによるシューベルトは、原曲の哀感を損なうことなく、ヴァイオリンによって旋律が滔々と歌われ、美しい。続く、ブラームスの「聖なる子守歌」の、フォン・オッターの堂々たる歌唱に目を瞠るが、あわせてヴィオラを演奏するホープのいぶし銀の如くの音色も素敵。

ところで、ハンガリー舞曲が、ヨアヒムによるヴァイオリン&ピアノ編曲版をもとにマルク=オリヴィエ・デュパンが管弦楽化した版あえて収録しているところは解せない。どちらかというとクナウアーとの二重奏を聴いてみたかったと思うのは僕だけだろうか。

 

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