オノフリ&アカデミア・モンティス・レガリスのヴィヴァルディ協奏曲集第1集(2005.6録音)を聴いて思ふ

vivaldi_concerti_per_violino_1かれこれ30年近くになると思う。
ジョルジュ・ドンと森下洋子が踊ったモーリス・ベジャール振付の「ライト」に衝撃を受けた。ドンの、何とも切ない哀しげな表情と、二人のストイックな色香に胸を締めつけられた。あそこで使われていたのはヴィヴァルディの協奏曲の緩徐楽章。ベジャールの選曲の妙にも感嘆した。

ヴィヴァルディは情熱溢れるオペラ・アリアのペーソスを緩徐楽章に持ち込んだ最初の作曲家であった。形の整った楽曲であるよりは感情の直接的な流露である。ここでは独奏者が感情のおもむくままに振る舞い、トゥッティは全く姿を消すか、ソロを囲む両端部分に限られることになる。
作曲家別名曲解説ライブラリー21「ヴィヴァルディ」(音楽之友社)P15

「感情の直接的な流露」という表現が実に巧み。聖職者であった彼にとって、俗世間と直接に交わる術はピエタ音楽院での教師という立場であり、ひょっとすると無意識に抑圧されていた感情が作品にストレートに投影された結果が緩徐楽章にあったのかもしれない。
アントニオ・ヴィヴァルディの緩徐楽章は実に人間的で美しい。

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集第1集「狩」
・ヴァイオリン協奏曲ニ長調RV.208「モグール」
・ヴァイオリン協奏曲ト短調RV.332
・ヴァイオリン協奏曲ニ長調RV.234「不安」
・ヴァイオリン協奏曲ハ短調RV.199「疑い」
・ヴァイオリン協奏曲変ロ長調RV.362「狩」
・ヴァイオリン協奏曲ホ長調RV.270「休息」
エンリコ・オノフリ(ヴァイオリン、指揮)
アカデミア・モンティス・レガリス(2005.6録音)

オノフリのヴァイオリン独奏は鮮烈だ。アタックの強烈な、それこそ「感情の直接的な流露」。同時にヴィヴァルディへの底知れぬ愛がある。

波が小石の浜辺にうち寄せるように
私たちの時間も その終わりへ向かって急ぐ
時の一つ一つが 先を行く時に取って変わり
争いながら つぎつぎに競って先へ進む
(ソネット60番「時の大鎌」)
関口篤訳編「シェイクスピア詩集」(思潮社)P31

時は僕たちを待ってはくれない。
初秋の気配にヴィヴァルディを思う。
ヴェネツィア生まれの巨匠の功績のひとつはバロック協奏曲の「形」を創造したことだろう。数多の協奏作品はどの瞬間を切り取ってもヴィヴァルディに間違いないが、両端楽章の勢いと中間楽章の哀感の対比は本当に見事としか言いようがない。
「狩」の第2楽章アダージョの豊かな情感、そして直後の第3楽章アレグロの熱狂。
あるいは、「休息」第2楽章アダージョの静謐な祈り、同時に第3楽章アレグロの静かな踊り・・・。

 

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