岡本誠司ヴァイオリン・リサイタル ~フランスのエスプリ~

seiji_okamoto_recital_20161102676たとえがずれているかもしれないけれど、30年近く前、葉加瀬太郎率いるクライズラー&カンパニーのメジャー・デビューのお披露目コンサートのことを思い出した。あの夜の雰囲気は今でも忘れない。いかにも攻撃的で斬新なアレンジでありながら、どこか抒情をにおわすステージに、ジャンルを超えた新しい音楽の可能性を垣間見、彼らは必ず大成するだろうと当時僕は想像した。

弱冠22歳の青年とは思えぬ堂々たる立ち居振る舞いとトーク、それに何より繊細でありながら骨太の演奏に、この人は間違いなく大物になるだろうと確信した。何より独奏パートでのその音の揺るぎない芯の強さと美しさに感動。
先の第15回ヴィエニャフスキ国際コンクールにおいて見事第2位に輝いた岡本誠司さんのリサイタルを聴いた。何と昨日ポーランドから帰国したばかりなのだと。一切の疲れをみせず、そのヴァイタリティ溢れる演奏は本当に素晴らしかった。

フランシス・プーランクのソナタにあるラテン的激情を完璧に表現し切った演奏にため息が出た。スペインの詩人ガルシア・ロルカの思い出に捧げられたこのソナタには、スペイン情緒はもちろんのこと、人間としてのあらゆる感情が刻印されるが、それら異国の、また異邦人の、僕などは想像もつかないような情景と熱狂を、まだそれほど年端の行かない若者が何とも情感豊かに表現する様子に正直驚いた。それに、音楽に没頭しながら、彼の舞台姿は実に冷静なのである。まさに大物。とりわけ第2楽章間奏曲の嫋やかさ。良かった。
また、エルネスト・ショーソンの傑作「詩曲」における楽想の自由奔放な飛翔に僕は夢見心地。巧い!
続く、モーリス・ラヴェルのツィガーヌにおける、前半独奏パートの華麗なテクニックはもちろんのこと、内面に溢れるジプシー的官能に惹き込まれた。それに、ピアノが登場してからの丁々発止のやり取りも絶好調で、こちらはピアニスト上田晴子さんの包容力というか、母性というか、そんなものを感じさせる大らかさが素晴らしかった。

岡本誠司ヴァイオリン・リサイタル
~フランスのエスプリ~
2016年11月2日(水)18時30分開演
第一生命ホール
岡本誠司(ヴァイオリン)
上田晴子(ピアノ)
・ファリャ(クライスラー編):スペイン舞曲第1番
・プーランク:ヴァイオリン・ソナタFP119「ガルシア・ロルカの思い出に」
・ショーソン:詩曲作品25
・ラヴェル:ツィガーヌ
~アンコール
・ヴィエニャフスキ:華麗なるポロネーズ第1番ニ長調作品4
・J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ハ長調BWV1005~ラルゴ

アンコールのヴィエニャフスキのポロネーズはその名のとおり華麗な演奏。
しかしながら、それ以上に素晴らしかったのはバッハ。
静謐さの中にある確固とした自信。短い時間の中で自分のヴァイオリンのすべてを投影しようと集中するその姿に感銘を覚えた。
それにしても、上田晴子さんとの見事な呼吸。ヴァイオリンとピアノが融け合う瞬間が多々見られた今日のリサイタルの成功の一因は上田さんの力量にもあると僕は思う。
未来が楽しみだ。

 

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3 COMMENTS

岡本 浩和

>雅之様

ご子息にはお会いしたことがないので何とも言えないのですが、「えらい違い」ではないと思いますよ。
人は一人一人特別でユニークな存在ですから。

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