ビーチャムのベートーヴェン第7交響曲

高田馬場のムトウ楽器が4月いっぱいで閉店だそうだ。
時代の趨勢というか何というか。学生時代にはお世話になった。とはいえ、それほど頻繁に出入りしていたわけでもなく、卒業後は滅多に訪れなかったのだからそうでない人に比べるとさほどの感慨深さはない。音盤を購入した数は数えるほどだからかどうなのか意外にあのお店で何を買ったのかを明確に憶えているから記憶というのは大したもの。
例えば、ピーター・ガブリエルの4枚目5枚目はムトウで購入した。ツィマーマンがバーンスタイン&ウィーン・フィルと録音したブラームスの第2協奏曲もここだった。懐かしいのは、「フルトヴェングラーその生涯の秘密」というレーザーディスク。今となってはもはや二束三文の価値だが、20数年前は確か1万5千円とかしたんじゃなかったか・・・。

この映画には思い入れがあった。それこそ浪人時代、京都の勤労会館だったかどこかでこの映画が上映されることを知り、「動くフルトヴェングラー」観たさに友人と出かけ、涙が出るほど感動した。あの映画がそのままパッケージングされているのだから、大枚叩いて手にしたときの喜びといったら・・・。それも25年近く前の話。懐かしい。

ところで、閉店に伴う在庫処分ということで新譜やSACDを除くすべての商品が半額ということで立ち寄った。さすがに2月の下旬からセールが行われているせいかクラヲタが禿鷹のように群れた後のようで、だいぶ数は少なくなっていた。それでも隅から隅まで見回したところ、いくつか欲しいものがあったので迷わず買った。サロネン指揮によるレブエルタスの作品集とリゲティの声楽作品集、それとモントゥー&ACOによる「エロイカ」とザンデルリンク&ケルン放送響による85年の「田園」(この演奏は以前NHK-FMで耳にしてぶっ飛んだもの。最初フルトヴェングラーかと思ったほど)、さらにゴンベールのマニフィカト集。ひとつずつじっくり聴いていこう。宿題が増えた・・・(笑)。

さて、八王子の講座の方向性がほぼ決まった。資料もある程度めどをつけた。そうこうするうちさくらカレッジも始まるので、こちらも内容をほぼ固めた。ワークブックの執筆然り。大学の講座も時を同じくして始まるので年度末は慌ただしい。

“Great Conductors”が素晴らしい。まだ全部は聴けていないけれど、どこからどういう風に聴いても凄演ばかり。「レコード芸術」ではないが、いずれもがあの頃の時代がかった巨大でしかも密度の濃い内容で舌を巻く。

・ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調作品92
・ヘンデル:バレエ組曲「バースの愛」
・ディーリアス:楽園への道
・シベリウス:行進曲風に~組曲「カレリア」作品11
サー・トーマス・ビーチャム指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(1957.10.20Live)

ビーチャム卿の生家に偶然辿り着いたのはかれこれ20年ほど前だったか・・・。休暇にマドリードやアランフエスを訪れ、トランジットでロンドンに寄った際に何泊かして、ビートルズ詣でのつもりでアビーロード・スタジオ周辺を散歩していた時に見つけたと記憶する(ただし、その当時はディーリアスの名曲集で知っていたくらいでほとんど興味がなかったので、2,3枚写真を撮って、はい終了)。

ビーチャム卿のベートーヴェンを初めて聴いてこれまたぶっ飛んだ。素晴らし過ぎる。基本的に揺るがない堂々としたゆっくり目のテンポで、余裕綽綽の表情を常に崩さない。それでいて第4楽章など、一気呵成に音楽を運び、しかも常に「歌」があるのだから堪らない。「喜び」と「躍動」と・・・。思わず2回も続けて聴いたほど。
ヘンデルがまた良い。1950年代当時の重厚なスタイルだけれど、とにかく美しいのって・・・。第4曲「メヌエット」の哀しみと儚さと。

そして、十八番のディーリアス。歌劇「村のロメオとジュリエット」の間奏曲をビーチャムがアレンジしたものらしいが、まるで映画音楽のよう。素敵だ。
ちなみに、「レコ芸」昭和34年10月号の新譜月評に同コンビによる例の有名な「管弦楽曲集」の評があった。執筆者は志鳥栄八郎氏。

(前略)ビーチャムは、イギリス音楽を自国のみならず全世界に紹介した功績者である。デリアスもビーチャムによって名を高めた一人で、生前のデリアスは、自分の作品は全部ビーチャムらの手によってレコーディングされることを望んでいたくらいであった。それほど彼らは、お互いの仕事を助けあい、信じあい、高め合っていたのである。
デリアスの音楽は印象主義の影響を受けており、音画的な要素が強い。彼の作品に交響詩が多いのはそのためである。(中略)演奏は彼のお手のものだけに、デリアスの音楽的特性をあますところなく再現している。(後略)

12 COMMENTS

みどり

話が横に逸れて恐縮ですが、少し前にディーリアスのドキュメンタリーを
教えていただきました。
http://www.youtube.com/watch?v=HMjNcFEQOfo
1時間ほどありますので、興味のある箇所だけチェックしていただければ
と思います。

トーマス・ハンプソンやジュリアン・ロイド・ウェバーのほか
チャールズ・マッケラス卿のお姿もありますね。
フェンビーが作品の記譜のためにディーリアスのもとへ馳せ参じる経緯
など感動してしまいます。
グリーグやシンディング、エルガーとの関係も大変興味深いです。

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岡本 浩和

>みどり様
ありがとうございます。
これは興味深いドキュメンタリーです。時間を見つけてじっくり見てみます。
ありがとうございます。

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岡本 浩和

>ふみ君
いや、厳密には2枚です。レブエルタスとリゲティ。
ふみ君がやたらに絶賛するので乗ってみようかと思って、勉強することにしました(笑)。

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みどり

岡本さん、また通信欄にさせていただいてしまいました、恐縮です。

ふみ様、これご存じないでしょうか?
サロネンの発案でプロジェクト化されたということになっていますが
98年にロサンゼルス・フィルの定期でも公開されています。
映像の上映に合わせて演奏されたそうです。

あるはずないと思って検索もしておりませんでしたが、お試しを…
http://www.youtube.com/watch?v=N_EVlSnYIiI
http://www.youtube.com/watch?v=bmA30pod6dw
天野喜孝がお好きでいらっしゃるのでしょうかね?

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岡本 浩和

>ふみ君
レブエルタスは、20年以上前に「中南米フェスティバル」っていうのに関わったことがあって、その時に初めて聴いてぶっ飛んだ曲です。とてもいいのでサロネン・ファンならぜひ!
「グレ」は聴いてみます。ルトスワフスキのシンフォニーかぁ、またマイナーな・・・(笑)。
ていうか、やっぱり実演聴かなきゃね。

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岡本 浩和

>みどり様
いえいえ、どんどん掲示板としてご活用ください(笑)
それにしてもご紹介の映像、今ちらっと見ましたが面白そうですね。
じっくり観てみます。
ありがとうございます。

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ふみ

みどり様

お、こんな代物は初めて聴きました。さすがみどり様、幅広い知識で恐れ入ります。貴重な映像をご紹介頂きありがとうございます。
サロネンの企画ですかぁ、ほぉ。
僕が行ったフィルハーモニアとの開幕コンサートのグレも舞台の証明を色々といじっていました。最後の一音が鳴り終わった瞬間に全照明を落としたり。
こういった共感覚的な試みが好きなのかも知れませんね。

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みどり

ふみ様、岡本様

“1001Nights”はサロネンの発案によるFilmharmonic Seriesの
第一弾ということで、2作目にはポール・ヴァーホーヴェンが決まっている
という話だったのです。
その後全く関連情報に接する機会がなく、日本の資本が入ったものの
思わしくなくて頓挫したのか?と。

今日になって調べました…(笑)
http://articles.latimes.com/2000/jan/22/entertainment/ca-56372
以降は第二弾について情報を見つけることができませんでした。
企画はあっても実現は難しかったということでしょうか。

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岡本 浩和

>みどり様
サロネンについてはまだまだ勉強不足ですが、彼は時代の先を行きすぎる人なんだと思います。
ゆえに企画すれど聴衆がついてこれず頓挫するということが起こるのでは?
そもそもふみ君が入れ込んでいる段階で一筋縄ではいかない「特別な存在」でしょう。(笑)

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