歌劇「ゲノフェーファ」体験!

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人間というのは本当にあーだこーだと考えるのが好きな生き物だ。少なくとも音楽である以上「答」はひとつではない。 

東京室内歌劇場による日本舞台初演であるシューマンの歌劇「ゲノフェーファ」を観た。オーケストラも30人ほどの室内管弦楽団。客席もほぼ埋まっているという状況。オペラの前にプレトーク、そして終演後にアフタートーク(長木誠司×山下一史×ペーター・ゲスナー)、と観客に対してはとても親切な催しだったと思う。

アフタートークでは、初めてコラボをしたという山下氏とゲスナー氏の意見の食い違いが垣間見えて実に興味深かった。このオペラ、台本ではハッピーエンドなのだが、演劇の演出家であるゲスナー氏は少し深読みする。万歳、と合唱で歌われる大団円に際し、天使がゲノフェーファとジークフリートの間に割って入り、実はゲノフェーファは夫を心底は許していないんだという深層を描く。第1幕冒頭の聖なる合唱の最中においてもゲノフェーファを舞台の隅っこでバドミントン(?)に興じさせ、彼女が聖女でもなんでもなく、普通の「人間」なのだということをまず観衆に知らせる。なるほど、観客との質疑応答の中で、そんなような舞台裏がよくわかる30分ほどの貴重な時間だった。でも、よくよく考えると演出の答が何であるのかなどは実にどうでも良い。

僕がこの舞台を観て純粋に感じたこと。ロベルト・シューマンが自分の理想とする女性像を単に描きたかっただけなんだろうということだけ。あれほどのひどい仕打ち、裏切りを受けて、すんなりと許せる人間なんているものか。夢見る夢男君が創出したファンタジーなり。

幻想、メルヘン・・・、それならそれで良い。余計なことを考えず、普通にその音楽を楽しめば良い。だから、そういう意味では今日の演出というのは考え過ぎだという意見も成り立つ。

答などないのである。そして、それを探すのも実に意味がない。あまりに冷ややかな見方だけど。

でも・・・、
今日の舞台はとても良かった。久しぶりに暖かい気候で、オペラの後、初台から西新宿界隈をぶらぶら妻と歩きながら、「ゲノフェーファ」のこと、仕事のこと、未来についていろいろ語った。良い音楽は人を元気にしてくれる。前川朋子さんのタイトルロール良かった。素晴らしかった。よく頑張った。(笑)

東京室内歌劇場42期第129回定期公演
シューマン:歌劇「ゲノフェーファ」作品81
前川朋子(ソプラノ)
和田ひでき(バリトン)
内山信吾(テノール)
紙谷弘子(メゾ・ソプラノ)
大澤建(バス)ほか
東京室内歌劇場合唱団
山下一史指揮東京室内歌劇場管弦楽団
演出:ペーター・ゲスナー

2011年2月5日(土)14:00~
新国立劇場・中劇場

※昨日の公演は皇太子殿下が鑑賞されたのだと。殿下はどんな風に感じられたのだろう・・・。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
歌劇「ゲノフェーファ」の実演、ご覧になったこと、羨ましい限りですね。こういう作品は、たぶんCDで音だけで聴くより何十倍も理解が深まるでしょうね。私は、オラトリオ『天国とペリ』との関連性も把握しておく必要があるのではないか、という気もしますね。いずれにしても、貴重なご体験から、いろいろ教えていただきたいです。
私はというと、昨日は1日、フルトヴェングラー生誕125周年でEMIが発売したSACD、ベートーヴェン交響曲全集とブラームス交響曲全集、およびワーグナーの管弦楽曲集2枚を、ずっと家で聴いていました。
http://www.hmv.co.jp/news/article/1012020061/
いやあ、驚くべき音質向上でした。SACDの威力をまざまざと見せつけられました。今まで聴いていたフルトヴェングラーのリマスターCDは何だったんだろうと心の底から思いました。2月23日の第2回発売の残り9枚(計19枚になる!)、高いけど全部欲しい・・・、う~ん、困ったものです(笑)。
しかし、ユニバーサルといい、EMIといい、SACDには見向きもしなかったのに最近のこの変わりようはどうしたことでしょう。エソテリックによる復刻SACD発売の人気による影響も大きかったのでしょうね。特にEMIがSACDに目を向けたということは、ビートルズのリマスターCDなんか買わなくて本当によかったです。こうなれば、どうせSACDで出るに決まっているのですから。
夜は、1975年来日公演のベーム&VPOのブラ1他の録画を観ました。改めて感動の極み。今のVPOとは全然違う。
岡本さんのコメントを読んで、ヴィオラを弾かれるのが趣味の皇太子殿下が、学習院のオケでチャイコフスキー「悲愴」を演奏されることをベームが聞き、自身がロンドンSOを指揮した同曲のLPを殿下にプレゼントしたという大昔の話などを、ふと思い出しました。
このところ、少し岡本さんと興味の方向性が違うコメントが多く、多謝。
なにせ、地方在住なもので・・・(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
こんにちは。
>オラトリオ『天国とペリ』との関連性も把握しておく必要があるのではないか
なるほど。僕は雅之さんに出会う以前はシューマンについて表層的になぞっていただけでしたので、このブログのやり取りなどを通して、ここ数年とても勉強させていただいております。ありがとうございます。
昨日、「ゲノフェーファ」を聴いて、シューマンの面白さ、というよりシューマンやその周辺について研究することの面白さを改めて確認しました。博学であった彼を知るには、やはり音楽以外の時代背景なども押さえないと難しいですね。
まぁ、ショパンが自作についてのシューマンの評論を見て苦笑したくらいですから、シューマン自身はあーだこーだと考えに考えて創作をしていたのかもしれませんね。
「楽園とぺリ」についてはすいません、勉強不足、知識不足です。逆にいろいろと教えていただきたいと思います。
ところでフルトヴェングラーのSACDについてですが、僕も聴いてみたいと思いつつも、今更また買い直すのもどうかなーなんて考えておりましたので、未聴です。
とはいえ「驚くべき音質向上でした」と聴くと俄然聴いてみたくなります。
>1975年来日公演のベーム&VPOのブラ1他の録画
>改めて感動の極み。
あー、そうでした。最近の話題の流れから、ジャストタイムでしたね。ちなみに、殿下にまつわるエピソード僕は初めて知りました。ありがとうございます。

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