ラサール弦楽四重奏団 ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第13番作品130(1972.12&76.12録音)

最も優れた木端!
最も優れたキリストの十字架!
どこで暮らしているのだ?—僕は海流に巻き込まれている君をこちらに向かわせるためにヴィーンに向かって風を吹きつけているのだ。—四重奏曲はまず金曜日までにこちらに届いていればいいのだが、遅くなるようなら日曜日カルルがこちらに来る時持って来させてくれればいい。自分で来てくれれば心からの歓迎が待ち受けている。

(1825年8月10日付、バーデンよりヴィーンのカルル・ホルツ宛)
小松雄一郎編訳「新編ベートーヴェンの手紙(下)」(岩波文庫)P180

シンドラーが敵意を抱くくらい、当時、ベートーヴェンは「自分の伝記はホルツに書かせる」と遺し(1826年8月30日)、ホルツを信頼していたようだ。ちなみに、ホルツはアマチュア・ヴァイオリニストだったが、シュパンツィク四重奏団の一員として、ベートーヴェンの四重奏曲の初演に携わっただけでなく、写譜の役割も担っていた。

ガリツィン侯に献呈された弦楽四重奏曲は、いずれも画期的な手法に則った難解な作品であり、技術的にも相当難しい。しかし、ラサール弦楽四重奏団の手にかかると、いとも容易く、そして、軽快に音楽が奏でられており、当時のベートーヴェンの心身ともの窮状が信じられないような再現となっている。

ベートーヴェン:
・弦楽四重奏曲第13番変ロ長調作品130—原典版:大フーガ変ロ長調作品133付(1972.12.14-19 & 1976.12.2-6録音)
ラサール弦楽四重奏団
ウォルター・レヴィン(第1ヴァイオリン)
ヘンリー・メイヤー(第2ヴァイオリン)
ピーター・カムニッツァー(ヴィオラ)
ジャック・カースティン(チェロ)
リー・ファイザー(チェロ)(改訂第6楽章のみ)

第5楽章カヴァティーナの抒情、ベートーヴェンの言葉通り、無情の美しさはラサールならでは。

私自身の音楽でこれほど深い印象を与えるものはなかった。この作品のことを思い出してさえ、私の目には涙が溢れる。
(ベートーヴェン)

続く、終楽章大フーガは、難解さを見事に中和し、音楽の核心たる愉悦を表現する。まさにこれは、前楽章との連続体であり、カヴァティーナあっての大フーガであることを僕たちにあらためて想起させる名演奏だ。

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3 COMMENTS

桜成 裕子

おじゃまします。このCDを聴いてみました。各パートが美しく明瞭に響き合って、自然な流れで音楽が進んで行くようで、心地よさを感じました。どこの国の四重奏団なのでしょうか。変なりきみがなく、ニュートラルという印象を持ちました。見事なアンサンブルは、音楽家にとっての最高の至福を味わえるのは弦楽四重奏団員ではないかと改めて思わされました。
カヴァティーナは、ベートーヴェン本人も落涙しそうなほどの会心のできだっだことを初めて知りました。ありがとうございました。

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岡本 浩和

>桜成 裕子 様

アメリカです。
ラサール弦楽四重奏団は、世界の名だたる四重奏団が教えを乞うているという、四重奏団の「師」という存在です。
仮にそういう名声を差し置いたとしても、彼らの生み出す音楽はどれもが素晴らしいですよ。
いろいろとお聴きになってみてください。

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桜成 裕子

岡本 浩和 様
 
 お応え、ありがとうございます。アメリカの演奏家に好感を持っています。といってもミュンシュのボストン響、ライナーのシカゴ響、ガルネリ四重奏団だけの材料ですが。独断と思いこみですが、アメリカの人はヨーロッパに憧れとロマンを抱いていて、それが純粋で真摯な演奏となる、というのはあまりに突飛でしょうか?
ラサールの人たちはもしかしたらヨーロッパから移住してきたのかもしれませんが、アメリカの演奏家と知り、うれしくなりました。ありがとうございました。

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