苦悩から歓喜へ

東京に戻った。あっという間の2日間、である。
それにしても東京は空気が悪い。標高1000メートルの富士五湖あたりでしばらく過ごすとそのことが如実にわかる。やっぱり人が住むところではないのでは、などと思う。
ところで、参加いただいた新人君たちの変化を目の当たりにして、今回も僕自身の役割の重要性をあらためて認識した。それに先ほどはもう何年もつき合いのあるある教え子から、ここのところいろいろと振り返っていて、突然僕にお礼が言いたくなったらしく、わざわざ「ありがとう」を言うための電話があった。なるほど、「ありがとう」という言葉からは元気をいただく。また明日からもがんばろう。

ちなみに、すみだ学習ガーデンさくらカレッジの第2期クラシック音楽講座が明日から始まる。第2期では各回ともテーマをひとつの楽曲に絞って、より具体的にクラシック音楽に親しむ術を伝授するという試みを行う。第1回はベートーヴェンの第5交響曲。暗から明へ、苦悩から歓喜へ、闘争から勝利へ、などいろいろな表現で語られるいわゆる「運命」交響曲だが、これほど聴く者に「元気を与えてくれる音楽」というのは古今東西なかなかない(類似作品はいっぱいあるけど)。

とにかくまずはこのベートーヴェンの傑作を何度も繰り返し聴いて、ものにしていただきたい、好きになっていただきたい、そういう想いを込めて明日は2時間愉しく講義を進める予定。

ということで、前夜祭(笑)。

ベートーヴェン:
・交響曲第5番ハ短調作品67(1943年録音)
・交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」(1944年録音)
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

いわずとしれた戦時中録音のオーパス蔵盤。これまで何度耳にしたことだろう。
フルトヴェングラーの数多ある第5交響曲の録音の中でも、ライブならではのドラマと、にもかかわらず決して乱れることのない精神性とが充溢する一期一会の記録。このコンサートが戦局不利になりつつあるベルリン市民たちにどれだけ希望を与えただろうことは容易に想像がつく。「苦悩から歓喜へ」、「闘争から勝利へ」。聴衆はフルトヴェングラーのベートーヴェンを聴きながら、祖国が勝利する夢を見続けていたのだろうか。
一方の第6交響曲。この「自然讃歌」の音楽には、本来「宇宙への感謝の念」が横溢するのだが、フルトヴェングラーのこの演奏にはそんなものはない。暗い人間ドラマがあるのみの特殊な「田園」シンフォニー。もはや勝利とは程遠い、戦争末期の苦痛がところどころに垣間見られる。とはいえ、ここにはまだまだ諦めない「闘争」と「憤怒」の感情も発露する。第4楽章「雷雨、嵐」を聴きたまえ。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。

フルトヴェングラーの1943年ベト5は、ライヴ録音では無い可能性が高いという説が近年強くなってきたようです。
私も少し前に改めて聴き直して、そうかもと感じるようになりました。

(下のサイトで、その情報を教えていただき感謝しております)
http://classic.music.coocan.jp/sym/beethoven/beethoven5-m.htm

http://www.kit.hi-ho.ne.jp/shin-p/

もちろん、演奏の特質については、岡本さんに同感です。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

>ライヴ録音では無い可能性が高いという説が近年強くなってきた

なるほど。確かにそう言われればそうですね。
47年録音に比べてどこか整然としているのはそういう理由なんでしょうね。
ありがとうございます。

返信する

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