
驚くべき名演奏。
未だフルトヴェングラーの名残りあるベルリン・フィルを率い、壮絶な2つの和音が火を噴き、聴く者を端から圧倒する。
偉大なる巨匠たち、特にモーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、ヴェルディそしてバルトークという予言者たちに、私自身がふさわしい奉仕者であると感じられるまで、満足感や幸福感、心の平静などを感じたことはありません。
これは音楽特有の、言葉では言い表せない概念であり、何とか言葉によって表現できないかと常に試みられているものであります。しかし、もし音楽に内在するものが言葉で表現できるものならば、音楽の比類ない偉大さと主体性はその拠って立つところを失うことでしょう。この概念の秘術に迫るためには、ある程度の才能のある音楽家たちがその生涯にわたって繰り広げる戦いのみでは不十分であり、音楽の孤高の天才がその生涯の最後の日まで、その解明に向けて努力を続けるべきであると確信しています。
~フェレンツ・フリッチャイ著/フリードリヒ・ヘルツフェルト編/野口剛夫(訳・編)「伝説の指揮者 フェレンツ・フリッチャイ 自伝・音楽論・讃辞・記録・写真」(アルファベータブックス)P29
1960年12月5日、モーツァルトの命日に綴られたフェルツフェルト宛の手紙の一節である。文字通り病を得、そしてその死の直前まで音楽に捧げたフリッチャイの言葉には真実がある。
ベートーヴェンの「エロイカ」を聴く。
言葉で語れない、文字にすることのできない音楽の神秘。
そんな性質の音楽を、勝手な私見で18年にわたって記事にする愚かさだが、それでも言葉にしない限り、その素晴らしさを伝えるのは困難だ。もちろん実際に生の音を、あるいは録音そのものを聴いていただくのがベストだろう。
(いまやYoutubeには古今東西の様々な名演奏がアップされているからとても便利だ)
とにかくこの「エロイカ」を聴いてみていただきたい。
ベートーヴェンの不屈の精神がここにあり、そして聴衆を鼓舞する勇気と智慧がここには刻印されている。偉大なるベートーヴェン。

ちなみに、わずか2ヶ月後にアンドレ・クリュイタンスが同じくベルリン・フィルと「英雄」をEMIに録音しているが、比較してみると、これほどまでに雰囲気が変わるものなのかと、実に興味深い。


