フルトヴェングラー&ウィーン・フィルの第9交響曲

1年以上前に手に入れたっきりいくつかのシンフォニーは聴いたものの、すべてには触れていなかったクリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィルのベートーヴェン全集。ボーナス・トラックとして音楽評論家ヨアヒム・カイザー氏との対談も収録されているところが興味深いのだが、何せそのトラックだけで510分(!)に及ぶもの。おそらくすべては一生観られないのでは・・・(笑)。

墨田区の講座でベートーヴェンの第9交響曲を採り上げたので、ここぞとばかりに大スクリーンで受講生の皆様と一緒に観てみた。何だか終始音量がヒートアップしない、どちらかというと静かな演奏に感じた。とはいえ、演奏そのものは熱い。ティーレマンの指揮姿、それに作品の解釈を観ていると、この人はやっぱりフルトヴェングラーに相当な影響を受けているんだろうとあらためて思った。そう思わせる節はいろいろとあるのだけれど、典型的なのは終楽章の「歓喜主題」が低弦で現れる前の比較的長めのパウゼ(それを観て、あそこはこうでなければ、といよいよ確信)。さらには、アダージョ・エ・モルト・カンタービレの静けさに満ちた崇高な響き・・・。極力音量を抑えて見事に「安寧」を表現する(金管による警告のモチーフすら8割ほどに抑えているのが特徴的)。

ただし、どういうわけか時間が経過すると細かいところまで思い出せないほど一方で淡白。フルトヴェングラーのように一旦耳にするとこびりついて離れないデモーニッシュな「重み」がないからなのかどうなのか・・・、そのあたりは何度かじっくり観て考えることにしよう。そういえば、ニーチェは「悲劇の誕生」において芸術上のアポロン的なるものとデュオニソス的なるもの性質を定義づけ、西洋の歴史がデュオニソス的なものがアポロン的なものに駆逐される流れだと評し、いずれその2つがワーグナーによって混在させられると説いた(ベートーヴェンもすでに第9交響曲の世界でそういうことを目指していたのでは?僕の勝手な妄想だけれど)。
ティーレマンのベートーヴェンにはそのあたりが欠けているのかも。つまり、フルトヴェングラーにあってティーレマンにないのはその2つの性質の混在なのである。

ということで、60年前のウィーン芸術週間におけるフルトヴェングラーの実況録音を聴いた。フルトヴェングラーの第9交響曲の基本路線は常に変わらない。どこをどう切り取っても彼らしい理性と感情とが交互に入れ代わり立ち代わり音楽そのものを支配する。

ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調作品125「合唱」
イルムガルト・ゼーフリート(ソプラノ)
ロゼッテ・アンダイ(アルト)
アントン・デルモータ(テノール)
パウル・シェフラー(バス)
ウィーン・ジングアカデミー合唱団
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1953.5.30Live)

ところで、ティーレマンの映像ではたと思った。
ベートーヴェン自身がシラーの詩に少しのアレンジを加えた次の箇所。

Deine Zauber binden wieder,
Was die Mode streng geteilt;
Alle Menschen werden Brüder,
Wo dein sanfter Flügel weilt.

汝の魔力は世の習わしが強く引き離したものを
再び結びつける
汝の柔らかい翼のひらくところ
すべての人々は兄弟となる

ベートーヴェン自身が詩を少し変えている点から考えてもおそらくここがポイントだ。
ここで汝とは”Freude”(歓喜)を指す。シラーは原案では”Freiheit”(自由)にする予定だったというが(フランス革命前夜のヨーロッパ社会において「自由讃歌」を表だって謳いことは憚られた)、いや、ここはやっぱり”Freude”(歓喜)でなければならぬ。そうか、なるほど・・・。この場では詳細は書かないが、僕の中でようやくすべてが腑に落ちたようだ。

ちなみに、フルトヴェングラーのウィーン盤。バイロイト盤(強いて言うならデュオニソス的)ほどの熱狂はここになく、ルツェルン盤(強いて言うならアポロン的)のような枯淡の境地にもない、実に中庸の指揮者の安定感がここに在る。音楽の運びはいつになく丁寧で踏み外しもなく、まさにアポロン的なるものとデュオニソス的なるものの混在!!
(特に、一度このコーダの疾走を体験すると他の指揮者のものはすべて物足りなくなるから困る・・・)

 


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