
90歳に近い老人の矍鑠たるピアノ演奏もさることながら、この録音の凄さは、ズービン・メータの勢いのある、そして熱量半端でない指揮だと僕は思う。
愛と死は一つだといわれるが、「エロス・タナトス」という言葉通り、アルトゥール・ルービンシュタインの演奏には、実に女性的な妖艶な色香が満ちる(クララ・シューマンがこういう演奏をしたのではないかと想像するくらい)。
一方、メータの指揮は見事に男性的だ。
第1楽章マエストーソ管弦楽の提示部から火を噴くような印象に度肝を抜かれる。
先へ先へと急ぐように、何という推進力なのだろう。
それでいてせかせかしたところのない、音楽の喜びがここにある。
ルービンシュタインは、少年の頃、この曲に惚れ込んだらしい。
そういう人が人生の最後辺りに録れた演奏が悪かろうはずはない。
ルービンシュタイン&メータ指揮イスラエル・フィルのブラームス協奏曲第1番(1976録音)を聴いて思ふ ・ブラームス:ピアノ協奏曲第1番ニ短調作品15
アルトゥール・ルービンシュタイン(ピアノ)
ズービン・メータ指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団(1976.4.6-7録音)
そして、第2楽章アダージョの、切ないほどの浪漫は、イスラエル・フィルの優秀な弦楽器群と木管群の腕の見せ所とばかりにオーケストラがうねる。そこに、徐に現れるルービンシュタインの独奏ピアノが、切々と情愛を込めて歌うのだから堪らない。
さらに、あらゆる感情を解決に導くような第3楽章ロンド(アレグロ・ノン・トロッポ)の、堂々たる威容に、その若々しさに、ルービンシュタインの「生涯現役」という心構えを思う。
完璧だ。
ヨハネスとクララは、果たして男女の関係はなかったのか?
こういう音楽を創造するとき、ブラームスの心は一体どこにあったのか?
そんなことを想像させる、一世一代の名演奏がここにある。
誰のものとも代え難い、アルトゥール・ルービンシュタインの真面目。
名曲だが、初演当時は決して評判よろしくなかったようだ。
そのとき、ブラームスは嘆いた。
しかし、それでも彼は自分自身を信じた。
何年も後、クララが再演することで一気にこの作品の株は上がった。
誰が演奏するか?
それが重要だ。
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クリティカル・シンキング
慈雨 今や、ブラームスのピアノ協奏曲第1番にも名演が揃う。
しかい、僕の中ではやっぱりこの録音が随一だ(刷り込みもあろうが)。
