デュトワ指揮モントリオール響のドビュッシー「子供の領分」(1994録音)ほかを聴いて思ふ

旧暦元旦に、ほんの少し感じられる春らしさ。
クロード・ドビュッシーの「春」を聴いた。作曲者自身からの指示によりアンリ・ビュッセルが1913年にオーケストレーションを施した管弦楽版による。パステル・カラーというより、どちらかというと原色の、後年のドビュッシーとはまた異なる風趣がとても愛らしい。

ローマ賞を獲得してのローマ留学中に生み出された「春」は、どこかドビュッシーらしさ、自由が欠けているようにも思われる。特に第2楽章モデレはあまりに明る過ぎる。

フランスが誇りにしているいろいろな制度のなかで、ローマ賞の制度ほど滑稽なものを、あなたは御存知かな?このことはすでにたっぷり言われているし、それ以上に書きたてられてもいる。そりゃ私も知ってますが、あまり効果はなくて来ているようですな?ローマ賞制度が、ばかげた考えを目立たせるあのなげかわしい強情ぶりであいかわらず続いているところをみればね・・・。
平島正郎訳「ドビュッシー音楽論集―反好事家八分音符氏」(岩波文庫)P26-27

ところがローマでの生活は、無言の監視がまといつき、アカデミズムの空気が充満していて、精神的ボヘミアンであるドビュッシーには耐え難いものだった。このあたり、既成の枠を絶えず越えてゆこうとする彼の本質が、よく現れている。
「作曲家別名曲解説ライブラリー ドビュッシー」(音楽之友社)P20

果たして彼は結果的に、この賞には懐疑的だったようだ。
所詮賞などというのはそんなものなのだろう。
しかしながら、さすがにシャルル・デュトワの棒は違う。隅から隅まで作曲者への愛情こもり、エネルギーとパワーの充溢するドビュッシー。
続く「おもちゃ箱」から湧き出づる愉悦。
まさに春に相応しい、晩年のドビュッシーの風刺の利いた洒落た逸品。

ドビュッシー:
・交響組曲「春」(アンリ・ビュッセル編曲)(1994.5.20録音)
・子どものためのバレエ音楽「おもちゃ箱」(アンドレ・カプレ編曲)(1992.5.14録音)
・ピアノだけの小組曲「子供の領分」(アンドレ・カプレ編曲)(1994.5.20録音)
・ピアノのための円舞曲「レントより遅く」(ドビュッシー編曲)(1994.5.20録音)
テオドーア・バスキン(オーボエ)
ジェームス・アール・バーンズ(ツィンバロン)
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団

可愛い娘クロード・エマに捧げられた「子供の領分」のカプレによる管弦楽版。
第3曲「人形へのセレナード」の優しさ。また、第4曲「雪は踊る」の悲しげな表情の表出は、デュトワの真骨頂。

作曲者自身の編曲による「レントより遅く」の、虚ろでありながら明朗な音調と柔和な音色。いつの間にか消え入るような音楽に心から感動。
青柳いづみこさんの言葉を思い出した。

クロード・ドビュッシーの世界は、不思議な光に包まれている。明るいのにほの暗く、もやもやしているのに透明で、柔らかいのに鋭く、優しいのに意地悪で、静かなのに激しく、冷たいのに熱く、漂っているようなのに深い。ちょうど、霊媒の口から吐き出されるエクトプラズムのように。
青柳いづみこ「ドビュッシー―想念のエクトプラズム」(東京書籍)P289

相対の中にある一体。ドビュッシーの音楽は深い。
ところで、何年も前のセクハラ疑惑でシャルル・デュトワのN響客演が白紙になりそうな気配(もうなったのか?)。残念だ。

 

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