PROCOL HARUM:A Whiter Shade Of Pale

昨晩、マキシム・ヴェンゲーロフのバッハを聴いて思った。なるほど、聴衆に音楽だけを感じさせるにははっきり自己主張しながらも自身を解放して自然の流れに任せられること、すなわち、過去から無意識に培ってきた「フレーム」を認識して飛び越えてしまうことが重要なんだと(もちろんそれは他の仕事でも全く同じなんだろうけれど)。ひょっとするとそれには相応の挫折体験が重要なのかも(マキシムは肩の故障というアーティスト生命を脅かす事態を経験しているから、そのことによってやっぱり一皮も二皮も剥けたのだと思う)。
「枠」を超える方法について考えてみた。
ひとつは身近な誰かと共感しながら「断捨離」し、解放してしまうこと。もうひとつはたった独りで虚心に自らに対峙しながら、仮我を捨て、解放すること。
そうか、結局昨日のコンサートで、マキシムは様々な演奏スタイルを試しながらそのことをやっていたんだ・・・。例えば、山根一仁とのバッハの協奏曲はさしずめ前者、アンコールの無伴奏ソナタからのアダージョは後者の方法・・・。

僕はヴェンゲーロフのバッハの音楽に途轍もない広がりを感じた。間違いなくヴェンゲーロフの音なんだけれど、限りなく透明で、空気のようなバッハだった。そう、自然で、なくてはならないもので・・・。美しかった・・・。
ヴェンゲーロフのバッハに触発されて、頭の中を飛び交う言葉を並べてみる。
プロコル・ハルム「青い影」、ビートルズ「アイ・アム・ザ・ウォルラス」、ジョン・レノン「神」・・・。

発表するやすぐさまヒットし、長きにわたり売れ、しかも様々なアーティストがカバーしたというある英国の傑作はバッハだけでなく、古今のクラシック作曲家の影響を受けて書かれている。そういう僕も、30年前初めて聴いた時、はまった。Procol Harumの”A Whiter Shade Of Pale”(青い影)

As the miller told his tale
That her face at first just ghostly
Turned a whiter shade of pale

いかにも幻想的なタイトルだけれど、詩の内容は実にどうってことがない。
音楽というのはそんなものだ(詩を書く人はそもそもそんな深く物事を考えて書いているわけじゃない)。

Procol Harum

Personnel
Gary Brooker (voice and piano)
Matthew Fisher (Hammond organ)
Robin Trower (lead guitar)
David Knights (bass guitar)
B.J. Wilson (percussion)

ゲイリー・ブルッカーはこの曲を作曲するにあたり、バッハの「G線上のアリア」の影響を受けたのだとかそうでないのだとか。似ていると言えば似ているし、似ていないと言えば似ていない。そのこと自体はどちらでも良い。それより、冒頭のクラシカルなオルガン前奏と少し黒っぽい印象の歌との対比。ブルッカーの味のある声質。どこをどう切り取っても45年を経た今でも奇跡的に「新しい」。

ちなみに、同じアルバムに収録される”Repent Walpurgis”。バッハの「前奏曲とフーガ」が引用され、その上にチャイコフスキーのピアノ協奏曲冒頭の有名な旋律がかぶさる。何ともプログレ・・・。

ところで、「青い影」は発表当時、馬鹿みたいにヒットした。この音楽にインスパイアされて、ジョン・レノンは”I Am The Walrus”を書いたという。いかにもジョンらしいひねくれ方だけれど(笑)。そうだ、”I Am The Walrus”といえば、ジョンが最初のソロ・アルバムに収録した”God”

I was the dreamweaver
But now I’m reborn
I was the Walrus
But now I’m John
And so dear friends
You just have to carry on
The dream is over

ジョンはビートルズの栄光も夢だったと回顧する。自分がウォルラス(セイウチ)だと歌ったのも「嘘」だと。そして、この曲の冒頭では・・・。

God is the concept
By which we measure
Our Pain

神なんて言うのは人間が勝手に作った観念だと(外に求めている以上すべては観念だ)。
そもそも神も仏も自身の内側に存在するものなんだ。
そのことを、ヴェンゲーロフがバッハの音楽を借りてあらためて昨日教えてくれた(ように思った)。
「枠」を超えて、流れに任せてしまえば、誰にだって神が内側に在ることを認識できるんだ・・・。

 

 


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