庄司紗矢香&メナヘム・プレスラー デュオ・リサイタル

shoji_pressler_20140410真面目に感激した。予想以上・・・。まるでお爺様と孫娘が仲良く協演するといった風情。音圧がほぼ同等で(もちろんそれは百戦錬磨の伴奏ピアニストの極めて精緻な計算の許なのだろうが)、完璧に「ひとつになる」瞬間が多々あった。

音楽の都を闊歩し、この町で生き、活動し、そしてこの町で没した3人の天才たちの音楽を聴いた。これこそまさにウィーン音楽の系譜とでもいうのか・・・。それはモーツァルトに始まり、シューベルトを経、そしてブラームスで終わるかのような錯覚に襲われるほどだった。

第1曲の、何という美音のモーツァルト!終始抑制され、愉悦と哀感が交互に現れる絶頂期の音。メナヘム・プレスラーは黒子に徹するが、しかしあくまで音楽を引っ張るのは彼。そして、そのリードに見事に応え、追随する庄司紗矢香。彼らは音楽の「流れ」を大切にする。楽章間の聴衆の咳払いなど物ともせず、ほとんど間を置かず音楽を進めてゆく妙味。
モーツァルトの中間楽章を終え、ヴァイオリンを下ろすことなくすぐさま終楽章に突入しようとした庄司は、会場の大袈裟な咳払いに思わず苦笑しつつ(?)しばし待つという風景が・・・。そういうシーンが幾度もあった。おそらく多くの聴者は意にも介さない様子だったが、とにかく「流れ」を止めてはいけない。僕はほとんど息を凝らしこの2時間半を緊張の下過ごした。

庄司紗矢香&メナヘム・プレスラー デュオ・リサイタル
2014年4月10日(木)19:00開演
サントリーホール
・モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第40番変ロ長調K.454
・シューベルト:ヴァイオリンとピアノのための二重奏曲イ長調作品162D.574
休憩
・シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ第1番ニ長調作品137-1D.384
・ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調作品78「雨の歌」
アンコール~
・ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女(庄司&プレスラー)
・ショパン:ノクターン嬰ハ短調(遺作)(プレスラー)
・ブラームス:愛のワルツ作品39-15(庄司&プレスラー)
・ショパン:マズルカ第13番イ短調作品17-4(プレスラー)

シューベルトの「二重奏曲」は稀に見る静けさを伴った音楽。冒頭のピアノ伴奏の宙から湧き出づるような音に、齢90を超える老大家の「人生」を垣間見た。謙虚さの内に在る自信と主張。それに負けじと若き庄司の内燃するパッション。ここでも音楽は、ほとんど途切れることなく、聴衆の反応など一切気にせず、プレスラーは気の赴くまま走る・・・。
前半だけで十分に満足できるものだったが、一層素晴らしいのは20分の休憩を経ての後半。

可憐な若きシューベルトの名作ソナチネの後、本日のメイン・プロであるブラームス。僕の印象では、第1楽章の前半はどうにも2人の息が分散し、バラバラに思えた。しかしながら、さすがにそこは・・・。例の、ヴァイオリンのピツィカートを伴奏にピアノが主題を奏でる箇所以降、立ち直った。第2楽章アダージョなど、こんなにも柔和で、こんなにも祈りに満ちたブラームスをこれまで聴いたことがなかったほど。続く終楽章も魅せてくれた。素晴らしかった。

とはいえ、この後、実に4曲も披露されるアンコールのすごさと言ったら・・・。これはもう言葉にならない。ドビュッシーとブラームスはもちろん素敵だった。微かな、柔らかな、それでいて強固な芯を持った、美音で紡がれる庄司紗矢香の創造する音楽に明らかに誰もが酔い痴れた。

白眉は、メナヘム・プレスラーのショパン。よもやショパンに涙するとは思ってもいなかったのだが・・・。本当に腰を抜かすほど感動した。何という音楽!!例えば、作品17-4に込められる、作曲者の祖国への哀感と憧憬をこれほどまでに的確に表現し得たピアニストが他にいるのか??昔、ホロヴィッツのドキュメントで聴いた演奏が随一だったが、間違いなくそれを超えた。思い出すだけで・・・、震えるほど。

僕の中でプレスラーというピアニストはボザール・トリオの一員という以外の認識がなかったものだから余計に驚いたということ。
芸術的年輪と人としての重厚さと、あらゆるものが詰まっていた。崇高なほどに。

 


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5 COMMENTS

畑山千恵子

プレスラーが独奏でアンコールを弾いたとはびっくりしましたね。ヴィーン原典版ではブラームスの楽譜校訂も手がけていました。

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岡本 浩和

>畑山千恵子様
噂では聴いておりましたが、素晴らしかったです、本当に。
ひょっとしたらアンコールで聴けるかもと淡い期待を持ちながら臨んだのですが、やってくれました。

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岡本浩和の音楽日記「アレグロ・コン・ブリオ」

[…] 日本人は爺さんが好きなんだとつくづく思った。 メナヘム・プレスラー ピアノ・リサイタル。 2年前、健康上の理由で一旦中止になった来日リサイタルがついに実現した。 僕にとっては3年半前の、庄司紗矢香とのデュオ・リサイタルの時以来の実演だが、さすがに齢93ともなると足元は覚束なく、明らかに足腰が弱っている様子で、痛々しい感すら覚えるステージだった。あの日あの時の衝撃はもはやなく、好々爺の奏でる枯淡の調べに僕はある種の戸惑いを感じながらも酔いしれた。 […]

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