フルトヴェングラーに請われ、当時ベルリン・フィル史上最年少でコンサートマスターに就任したシモン・ゴールドベルク。日本でも晩年、新日本フィルに再三客演し、指揮者として名演奏を残したことが忘れられない。亡くなって早30年だ。
残念ながら僕はゴールドベルクのヴァイオリニストとしての実演を聴くことは叶わなかったけれど、戦前の数々の名演奏を録音で聴くにつけ、なるほど確かに情感こもる、とても女性的な音楽の造形についつい時間を忘れて浸ってしまう。中でもリリー・クラウスとのモーツァルトやベートーヴェンのソナタたち。今となってはこれを凌ぐ名演奏はたくさんあるけれど、ベートーヴェンなら特に初期のソナタに適性を思う。
作品12-2はロンドンでの録音、そして作品24と作品30-1に関しては、何と来日時、東京での録音ということである(記録では日比谷公会堂での彼らの来日公演は同年3月のことだから少々の時差がある。果たして彼らはしばらく日本に滞在していたのか、それとも録音データに誤りがあるのか、勉強不足でわからない)。
アントニオ・サリエリに捧げられたソナタイ長調作品12-2が僕のお気に入り。
青春のベートーヴェンの意気揚々たる渾身のソナタを弱冠26歳のゴールドベルクが俎上に上げ、33歳になったクラウスが見事な伴奏、二重奏を聴かせるのだから堪らない(古びた録音であるがゆえのいぶし銀の名演奏)。素朴な響きの第1楽章アレグロ・ヴィヴァーチェから第2楽章アンダンテ・ピウ・トスト・アレグレットの詩情は、ゴールドベルクの若さゆえの愛らしさ。そして、終楽章アレグロ・ピアチェーヴォレの解放感、推進力はベートーヴェンの未来への希望の証。
ゴールドベルク&クラウスは不世出のデュオだったのだろうと思う(実演に触れてみたかった)。