モルゴーア・クァルテットの「原子心母の危機」を聴いて思ふ

atom_heart_mother_is_on_the_edgeプログレッシブ・ロック、いわゆる「プログレ」と呼ばれるジャンルのポピュラー音楽を僕は30余年前に初めて聴いた。イエスの「こわれもの」に始まり、「危機」、そしてキング・クリムゾンの「宮殿」、「太陽と戦慄」、さらにピンク・フロイドの「狂気」と王道を片っ端から攻めた。当時は寝ても覚めても「プログレ」。そうして、熱い何年かがあっという間に過ぎた。

先年、モルゴーア・カルテットがショスタコーヴィチの作品とあわせプログレ作品の弦楽四重奏版をプログラムに引っ提げてのコンサートが開かれた。もちろん僕はそこにいた。聴衆は明らかに普通のクラシック・ファンでないことが明らか。まして浜離宮朝日ホールがその一夜はロック音楽の殿堂と化したようだった。痺れた。

来月、再びモルゴーアがあのステージに降り立つ。ショスタコーヴィチの作品138と組み合わせ、おそらくプログレ編曲作品が演奏される。「おそらく」というのは具体的に曲目が発表されていないから。間違いなく「見もの」だ。それに合わせたのかどうなのか、「原子心母の危機」と称する彼らのプログレ第2弾が昨日店頭に並んだ。

ジャケットから本気・・・。表は「原子心母」のパロディ、裏がここまでやるかと思うほど「危機」そっくり。これだけで僕たちは心揺さぶられる。
音を聴いて一層確信した。荒井英治は天才だと。

「原子心母の危機」モルゴーア・クァルテット
・レッド(キング・クリムゾン)
・原子心母(ピンク・フロイド)
・平和~堕落天使(キング・クリムゾン)
・ザ・シネマ・ショウ~アイル・オブ・プレンティ(ジェネシス)
・トリロジー(エマーソン・レイク&パーマー)
・危機(イエス)
・ザ・ランド・オブ・ライジング・サン(キース・エマーソン)
荒井英治(第1ヴァイオリン)
戸澤哲夫(第2ヴァイオリン)
小野富士(ヴィオラ)
藤森亮一(チェロ)

「レッド」から異様なテンションが維持される。あのメタル・クリムゾンを髣髴とさせるモルゴーアの恐るべきアンサンブル。完璧な現代音楽として再構成される「原子心母」はこのアルバム中の白眉。20分ほどの原曲を半分ほどに縮小してのパラフレーズ。荒井英治の天才が爆発する瞬間をここに見る。その意味では「トリロジー」も素晴らしい。
しかし、期待外れは「危機」。全曲を、冒頭の鳥のSEまでをも完璧に再現しているのだが、あの複雑な作品を弦楽器4挺で表現しようとするのはどうやら無謀なようだ。少なくとも僕の感覚では、ジョン・アンダーソンのあのヴォーカル・ラインが表現し切れていない(というかヴォーカル・メロディが入ると音楽が一気に陳腐になる。とはいえ、演奏する側はこの曲が最も困難、大変らしい。それはそうだ。原曲そのものが常にクライマックスなのだから)。
ガブリエル・ジェネシスは傑作。思わず涙が出そうなほど。そして、アルバムの掉尾を飾るのはキース・エマーソンによって東日本大震災の直後に「鎮魂曲」として書かれたものだそう。美しい。

荒井英治によるライナーノーツに膝を打つ。

音楽が生れる場は常に創造的であらねばならない。
その源泉は今、生きているこの現実にある。
だから、私たちは世界のあちこちから発せられている叫びに耳をそばだてていたい・・・そして私たちも叫ばなければならないだろう。
そのようにして、モルゴーアはプログレを演奏する。なぜならそれが、私たちにできることだからだ。

 


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2 COMMENTS

岡本 浩和

>みどり様
はい、完全に僕の早合点です。いい加減ですいません。
確かにe+のサイトにもプログラム乗っておりました。

2年前のコンサートが素晴らしかったので、今年もです。
ショスタコとプログレを組合せるところがたまりません。それに今年はリゲティも入るようですし。
ということで、僕は夜の部に参戦決定です。

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