The Beatles “Anthology 3” (1996)を聴いて思ふ

そして最後に、ビートルズ後期の日々は大いなる矛盾と混乱の連続であった。だめになったかと思えば、立ちなおる。失敗と成功がくりかえされ、かつ混在していた時代である。ビートルズは自分たちの会社、アップルを設立した。レコード、映画など、クリエイティヴな5つの部門からなるこの会社は、「才能があると思う人は来てください。援助は惜しみません」と高らかに呼びかけた。いったい、それだけの才能がある人間なんてどれだけいるというのだろう。
TOCP-8705-06デレク・テイラーによるライナーノーツ

「人間の悩みのすべては人間関係にある」とするアルフレッド・アドラーの心理学には、「勇気づけ」という重要なメッセージがある。この「勇気づけ」は、原語は”encouragement”であり、厳密には「背中を押すこと」という意味合いが強い。
人は無意識に他人の勇気をくじいたり、あるいは逆に勇気づけるメッセージを送るもの。
例えば、勇気をくじくものは「成果重視の態勢」であり、勇気づけるものは「過程を重視する態勢」であるとする。何事も成功するに超したことはないが、たとえ結果が失敗であったとしてもいかにその過程を賞賛する言葉を他人に対してかけてあげられるかどうかが鍵。
残念ながら、人間というのは弱い生き物で、特に失敗の場合、過程を具に振り返ることを怖れるもの。ましてやその過程の良かった側面に焦点を当てることなどまずはないだろう。

普通なら絶対に陽の目を見ることのない「過程」。
20余年前、The Beatlesが突如としてリリースした「アンソロジー」は衝撃的であったが、余程のファンでなければ楽しめるものではなかった。相当なフリークだと自認していた僕ですら繰り返し聴くことを憚られた。悪い言い方をすれば、所詮は不完全な「過程」だったゆえ。
ただし、彼らには大いなる自信と自負があった。
途中経過であろうと、The Beatlesの赤裸々な姿をあの時期に開示しようとした勇気に僕は感謝した。おそらくそのことによって新たな若いファンが増えたことだろうゆえ。

The Beatles:Anthology 3 (1996)

Personnel
John Lennon
Paul McCartney
George Harrison
Ringo Starr

いわゆる後期の、“The Beatles”以降のアルバムに収録された楽曲の、ほとんど編集されない「ありのまま」の姿は枯淡の味わいを秘め、特別な美しさを持つ。とても直接的な響きは、聴いていて何だか切なくなるくらい。そこには”Junk”の原型があり、また、”Not Guilty”の原型もあった。
また、”Let It Be”から”Two of Us”の、友好的な雰囲気の中で歌われるジョンとポールの見事なデュエットに感激。この歌からはビートルズがまもなく解散に至るとは思えないほどの熱が感じられる。そして、”Teddy Boy”におけるポールのリラックスした歌唱の粋。これほど砕けていても音楽の高尚さが失われないのは奇蹟。
あるいは、ジョージの”All Things Must Pass”の極めつけの魅力!!
最後の”The End”の神々しさは類を見ず、終結のエコーを伴ったまさに幻のような音塊は、これでビートルズの歴史に幕が下ろされたことをリアルに想像させ、実に巧み。ビートルズは怪物だ。

 

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2 COMMENTS

雅之

>何事も成功するに超したことはないが、たとえ結果が失敗であったとしてもいかにその過程を賞賛する言葉を他人に対してかけてあげられるかどうかが鍵。

同感です。昨年1年にわたって大いに楽しめた、真田昌幸・ 信繁(幸村)親子とその時代を描いた三谷幸喜 脚本の「真田丸」がまさにそうでした。

https://www.amazon.co.jp/%E7%9C%9F%E7%94%B0%E4%B8%B8-%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88-%E7%AC%AC%E5%9B%9B%E9%9B%86-Blu-ray-%E5%A0%BA%E9%9B%85%E4%BA%BA/dp/B01N2PC5K7/ref=sr_1_1?s=dvd&ie=UTF8&qid=1492026806&sr=1-1&keywords=%E7%9C%9F%E7%94%B0%E4%B8%B8+dvd

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岡本 浩和

>雅之様

大河ドラマを観ないので、「真田丸」についても言及できないのですが、三谷幸喜の脚本なら相当楽しめそうですね。ましてやアドラー的「勇気づけ」を実践する内容ならなおさら。(笑)
観てみたいところです。
ありがとうございます。

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