ナディア・ブーランジェ「歌曲&室内楽作品集」を聴いて思ふ

nadia_boulanger_lieder_kammermusik水の中ではとにかく力を抜くことだ。それによって身体は浮き、そのうち得も言われぬ癒しに満たされることになる。
どうしても「浮遊感」が欲しくなった。陸の上で「浮かぶ」なら瞑想か、そうでなければ相応の音楽だ。ここはクロード・ドビュッシーかと思ったが、無調の気配に少しばかり気難しい。ならばと、ナディア・ブーランジェを選んだ。
孤独感に溢れ、気分が高揚する中にも彼女のいたいけな寂しさが表出する。しかも音楽は気怠く、どんな瞬間もふわふわと浮つくのである。

夏の日の火照った身体を即座に冷ましてくれる作品たち。
例えば、1916年に作曲された「新たなる人生へ」という名の5分ほどのピアノ小品がある。世の中は第一次世界大戦の最中であり、妹のリリは不治の病に苦しみながら深い洞察に満ちた傑作をいくつも生み出していたそんな時期と重なる。これらは、自身(と家族)の身に降りかかった不幸と、それでも未来への希望を決して置き忘れぬと、想像力と創造力を駆使して書かれた私小説的名作なのではないのか。何という儚さ・・・、何という美しさ・・・。

ナディア・ブーランジェ:
・5つの歌曲(1909)
・ピアノのための「新たなる人生へ」(1916)
ナディア・ブーランジェ/ラウール・プーニョ:
・明るい時間(1909)
ナディア・ブーランジェ:
・7つの歌曲(1915/1922)
・チェロとピアノのための3つの小品(1913)
メリンダ・パウルセン(メゾ・ソプラノ)
フリーデマン・クプサ(チェロ)
アンゲラ・ガッセンフーバー(ピアノ)

カミーユ・モークレールの詩による「7つの歌」はいずれも重い。歌詞の内容がわからないのが残念なのだが、音楽だけを捉えてもあまりに苦渋に満ちる瞬間多々。しかし、消え入るように歌われるパウルセンのメゾは実に幽玄でやはり美しい。
さらに、チェロのための3つの小品の後期で可憐な表情に身も心も打ちのめされる。ほとんど子守歌のような素敵な「浮遊感」。リリがチェロで、ナディアがピアノで・・・、これは姉妹のやはり私的な対話だ。

思わず繰り返しはまった。
アンニュイな夏の夜に、ナディア・ブーランジェが似合う・・・。

 


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2 COMMENTS

畑山千恵子

1950年、白血病のため33歳でこの世を去ったディヌ・リパッティは、作曲をナディア・ブーランジェに師事しました。作曲家としてのリパッティの作品も残っている上、作曲家としてのリパッティも注目されるといいですね。

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