デュトワ指揮モントリオール響のファリャ「三角帽子」&「恋は魔術師」(1981.7録音)を聴いて思ふ

努力があれば大抵のことは身につくもの。何事にも一生懸命に、そして熱中することが大切なんだとあらためて思う。

民族色豊かでありながら洗練の極み。
マヌエル・デ・ファリャの音楽の粋。
音楽が舞踊を得、そして舞台を得たがゆえに一層光輝を放つ結果となった。
そこにセルゲイ・ディアギレフがいて、またロシア・バレエ団があり、そして振付家レオニード・マシーンがいたからこそ生まれた傑作。

スペインの踊りの魅力に感動したディアギレフが、スペイン・バレエを自分のレパートリーに取り入れたいと考え始めたのも無理はない。しかし、このスペイン・バレエの新作は本物のスペイン舞踊のステップとリズムに基づいたものでなければならず、あちこちでやっている本物と共通するもののほとんどないまがい物とは、まったく異なっていなければならないと彼は主張した。しかし、そのときはスペイン舞踊の振付家なるものは存在しなかった。そこでマシーンは、自らスペイン舞踊の研究に没頭し、まさにその本質をつかむ必要があった。マシーンはこのことに熱中し、いつもの熱意と才能で、非常に期待のもてる結果を出すに至った。そこでディアギレフは、スペインの作曲家マヌエル・デ・ファリャに楽曲を、背景と衣装デザインをパブロ・ピカソに依頼した。
セルゲイ・グリゴリエフ著/薄井憲二監訳/森瑠依子ほか訳「ディアギレフ・バレエ年代記1909-1929」(平凡社)P153

何と贅沢なバレエ。こういうものを初めて、そして直接目の当たりにできた観客が僕は心底羨ましい。
バレエ音楽「三角帽子」は、もちろんバレエを観るべきだろう。しかし、シャルル・デュトワの棒によるその音楽だけを聴いてみても、民俗的側面は後退しているもののそれでもスペイン情緒あふれる熱狂を十分堪能でき、実に素晴らしい。特に、終幕の踊りの愉悦と解放など本当に心躍る。

「三角帽子」は、7月22日に初演され、観衆をたちまち魅了した。ファリャは、差し迫った家庭の事情で、結局、スペインに帰国しなければならず、オーケストラの指揮をとることができなかった。これにはディアギレフも落胆した。このバレエでたいそう賞賛された装置は、ピカソによるアクト・カーテンだった。この幕は、ボックス席から闘牛を観戦するスペイン人の集団を表現したもので、ほとんどすべてピカソ自身が描いた。
~同上書P166-167

ほぼ100年前の熱狂が蘇るよう。デュトワは僕たちを確実に魅了する。

ファリャ:
・バレエ音楽「三角帽子」
・バレエ音楽「恋は魔術師」(管弦楽版)
コレット・ボーキー(ソプラノ)
ユゲット・トゥーランジョー(メゾソプラノ)
リヒャルト・ヘーニッヒ(ソロ・バスーン)
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団(1981.7.9-17録音)

そして、ファリャの出世作「恋は魔術師」での、デュトワの流麗な指揮というか、心から音楽に共感しているだろう様子に感心し、また、モントリオール交響楽団の抜群の技量とアンサンブルにも心震える。例えば、「無言劇」における管弦楽の情感豊かな音楽の美しさ。何という艶やかさ、妖しさ。続く「愛の戯れの踊り」におけるトゥーランジョーの歌の心のこもった真実味、管弦楽の色彩!

あなたは悪いジプシー男
一人のジプシー女が愛してしまった。
女が与える愛に
あなたはふさわしくない男
誰が考えただろうか
他の女のためにその人を売ってしまうなんて!
(訳:天露雄)

ラテンの音楽を振らせたらシャルル・デュトワはピカイチ。
それにしても月並みな言葉しか並べられぬ自分の語彙の少なさに情けなくなる。
音楽の感動を言語化することの難しさよ。

 

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4 COMMENTS

雅之

>努力があれば大抵のことは身につくもの。何事にも一生懸命に、そして熱中することが大切なんだとあらためて思う。

楽器演奏は、特に、ですね(笑)。

> 音楽の感動を言語化することの難しさよ。

言葉とは、所詮は不完全です。たとえば、①と②はどこが違うでしょう?

①月曜日から、1日おきに薬を飲む。

②月曜日から、24時間おきに薬を飲む。

返信する
岡本 浩和

>雅之様

1日と24時間は一見イコールですが、24時間とする方が薬を飲む時間がより厳密に指定されるように感じられますね。たぶん錯覚なんでしょうが・・・。

返信する
雅之

①は月曜日に薬を飲んだら次に飲むのは水曜日、②は次に飲むのは火曜日ですよね、常識的には。

憲法や教育勅語でさえ、こういう曖昧なところが沢山あって、今も世の中を混乱させ続けています。でも、考えてみれば楽譜にも、そういったところがいっぱいありますよね(笑)。

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