タリスの40声のモテット「我、汝の他に望みなし」を聴いて思ふ

tallis_sacred_music_willcocks_kings_college圧倒的音響。これこそミクロ・コスモス!現代のようにスタジオでの編集作業が不可能な16世紀において、40声部にも及ぶ宗教音楽が生み出されたことの奇蹟。1573年、エリザベスⅠ世の40歳の誕生日のために書かれたという俗説があるが、真相はわからない(ラテン語で書かれていることからカトリックの典礼向けだろうが、当時の英国は国教会がすでに成立していたことから考えてもその説は怪しいのでは?)。
ソプラノ、アルト、テノール、バリトン、バスの5声部が一組となり、8組を要するトマス・タリスの40声のモテット「我、汝の他に望みなし」。一言、天才!!

わたしはあなたの他に希望を見出したことは一度もありません。
イスラエルの神よ、あなたは怒り、そして慈悲深くなられます。
そして、苦難のうちにある人々の、あらゆる罪を免じてくださいます。
神なる主よ、天と地の創造主よ、私たちの弱さをどうか心に留めおいてください。

トマス・タリスからちょうど400年後の1973年、マイク・オールドフィールドは28種類の楽器を自ら演奏し、約2300回のダビングを重ねて名作「チューブラー・ベルズ」を完成させる。2つの季節にまたがってなされた気の遠くなるような緻密な作業・・・。こちらも奇蹟的である。

ちなみに、「チューブラー・ベルズ」は短縮版が同年の映画「エクソシスト」のテーマ音楽に使われたが、この映画が単なるホラー、オカルトものでなく、物語のうちに母の死に罪を感じる若い神父の葛藤を捉えている点がミソ。芸術的レベルは非常に高い。
ウィリアム・フリードキン監督がテーマ音楽として「チューブラー・ベルズ」に白羽の矢を立てた理由は知らない。しかし、タリスのモテットとの音響的共通性を見出した僕には、マイク・オールドフィールドの内側に同種の信仰(あるいはそれに近いもの)が垣間見え、自ずと、あるいは天の啓示によってあの壮大な作品が生み出されたのだと思えてならない。

タリス:
・40声のモテット「我、汝の他に望みなし」
ジョン・ランドン(オルガン)
サー・デイヴィッド・ウィルコックス指揮ケンブリッジ・キングズ・カレッジ合唱団(1965.3録音)
・主よ、あなたの御手に
・断食し、泣き悲しんで
・光が消える前にⅠ
・光が消える前にⅡ
・今こそ裁きの時
・救い主よ、地より来たれ
・おお、光より生まれし光
・世の救い主よ
・邪悪な者
・主の御母の奇跡をみよ
・オルガン・レッスン
・聖なる神
アンドリュー・デイヴィス(オルガン)
サー・デイヴィッド・ウィルコックス指揮ケンブリッジ・キングズ・カレッジ合唱団(1965.3録音)

心が澄む。魂が洗われる。
果たしてマイク・オールドフィールドの意識の内にはタリスの40声部のモテットがなかったのか・・・。

Mike Oldfield:Tubular Bells

Personnel
Mike Oldfield (Acoustic guitar, bass guitar, electric guitar, Farfisa, Hammond B3,and Lowrey organs, flageolet, fuzz guitars, glockenspiel, “honky tonk” piano, mandolin, piano, percussion, “taped motor drive amplifier organ chord”, timpani, vocals and tubular bells)
Steve Broughton (percussion)
Lindsay L. Cooper (string bass)
Mundy Ellis (vocals)
Jon Field (flutes)
Sally Oldfield (vocals)
Vivian Stanshall (Master of Ceremonies)
Nasal Choir (uncredited)
Manor Choir (Simon Heyworth, Tom Newman, Mike Oldfield)

oldfield_tubler_bells「チューブラー・ベルズ」は、リチャード・ブランソン率いるヴァージン・レコードの記念すべき第1弾アルバムだが、ブランソン自身によって語られる当時のエピソードが興味深い。ブランソンら幹部はマイクの音楽が気に入ってはいたが、誰も商業的に成功するとは思っていなかったみたい。

マイク:僕は、楽器をいくつか借りなきゃならないんだよ。
リチャード:どんなもの?(と手帳をとりだしリストを作った)
マイク:上質のアコースティックギター、スパニッシュギター、ファルファッサのオルガン、フェンダーのプレシジョンベース、上質のフェンダーのアンプ、グロッケンシュピール、マンドリン、メロトロンだ。
リチャード:それは何だい?(私は丸でかこった)
マイク:どうしても必要というわけじゃないけど・・・、(マイクは譲歩した)トライアングル、ギブソンのギター、それからチャイムも。
リチャード:(私は尋ねた)チャイムってなんだい?
マイク:チューブラー・ベルズ(チューブ形のベル)だ。

私は「チューブラー・ベルズ」とメモしてこれらの楽器を音楽雑誌で探し始めた。
ギターの値段は35ポンド、スパニッシュギターが25ポンド、フェンダーアンプが45ポンド、マンドリン15ポンド、トライアングルは特別安くて1ポンド、チューブラー・ベルズは20ポンドした。

リチャード:チューブラー・ベルズが20ポンドだって?
・・・元がとれるといいね。

人生というものはわからないものだ。

 

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スティーヴ・ライヒと音楽家たち ライヒ ドラミングほか(1974.1録音)を聴いて思ふ | アレグロ・コン・ブリオ へ返信するコメントをキャンセル

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