ワルターのブラームス「悲劇的序曲」&「運命の歌」を聴いて思ふ

brahms_4_tragic_walterモーツァルトは外に遊ぶ。一方、ブラームスは内に探究する。同じ天才だが、モーツァルトの音楽は遠心力に富み、ブラームスのそれは求心力に富む。仮にそれが真ならば、逆もまた真なり。

ブラームスの4つの交響曲の調性は、順にハ短調、ニ長調、ヘ長調、ホ短調で、モーツァルトの最後の交響曲の、いわゆる「ジュピター音型(ド、レ、ファ、ミの4音符)」といわれる4つの音と符合する。もちろんそれはブラームスが意図したことではなく、明らかに偶然の産物だと思うのだが、無意識下でモーツァルトとブラームスは通じていたと考えられなくはない。

ブラームスの4番目の交響曲は、特に古典形式(バロック形式)に準じ、その中で大いなる革新が行われる。保守派とみなされるブラームスも、そして堅牢な形の中で自らを表現しようとするブラームスも、世の中の思い込みに過ぎない。この人ほど新たなことに挑戦した人はいないのでは・・・?

「悲劇的序曲」作品81。ブラームスが、同じタイミングで性格の異なる作品を生み出すことはベートーヴェンに倣ったことだろう。「大学祝典序曲」作品80と同時に作曲されたこの曲は、確かに悲劇性を十分に秘めるものの、僕には「人生の肯定感」に満たされた音楽だと思えてならない。ちなみに、作曲の直接の動機は、ゲーテの「ファウスト」の上演のためだとか、クララの息子フェリックスが病気のために夭折したことに依るなど様々いわれるが、真相はわからない。とはいえ、「ファウスト」のための音楽という推測はあながち間違っていないのではないかと僕は思う。

ブルーノ・ワルター最晩年のステレオ録音は、若々しく透明感溢れ、見通しの良い、まさに劇的な音楽として表現される。

ブラームス:
・交響曲第4番ホ短調作品98(1959.2録音)
・悲劇的序曲作品81(1960.1録音)
・運命の歌作品54(1961.1.9録音)
オクシデンタル・カレッジ・コンサート合唱団
ブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団

そして、「運命の歌」作品54。

あなたたちは天上の光のなか
柔らかな大地の上を歩む、至福の精霊たちよ、
輝く神々の大気が
軽くあなたたちに触れる。
女流芸術家の指が
聖なる弦を奏でるように。
~フリードリヒ・ヘルダーリン(石田一志訳)

人間の内なる暗黒に目を向けたヘルダーリンの詩に対して、ブラームスの音楽は実に楽天的だ。
重厚で渋い印象を与える作曲家だが、この作品においてもやはり「人生の肯定感」をもって終わる。ワルター&コロンビア交響楽団の明るく軽快な音色と雰囲気がそのことに一層輪をかけ、当時のブラームスの心情を代弁する。
ブラームスの楽観性はモーツァルトのそれにやっぱり通じる。
2人の天才はいわば双生児だろう・・・。

 

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1 COMMENT

岡本浩和の音楽日記「アレグロ・コン・ブリオ」

[…] 個を越える表現というのなら、シューリヒトがバイエルン放送響を指揮した録音の方がより一層。あるいは、ワルター晩年のコロンビア響とのそれも最右翼。 とはいえ、音楽の沈潜と爆発の対比はフルトヴェングラー以上かも。 おそらく、実演に触れていたら卒倒、心底感動していたのだろうと想像する。 […]

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