神よねがわくばわれを救いたまえ。
テノールによる短い導入に続いて奏される、歌劇「オルフェオ」から転用された器楽パートのコルネットが鳴り響いた瞬間、空気が一変した。実に純粋で、敬虔な音宇宙が、以後90分の間、一切の集中を欠くことなく眼前に広がった。
僕は言霊、あるいは音霊というものがあるのだということを実感した。
淡々と進められる音楽に内在する何というエネルギー、何というパッション。曲毎に舞台上のフォーメーションは変わり、クラウディオ・モンテヴェルディの集大成たる音楽世界が視覚でも堪能できたことが何より貴重。
天にありて証しを立てるもの3つ:
父と、御言葉と、精霊なり、
しかして3つは一に帰するべし。
(対訳:後藤暢子)
第7曲コンチェルト「2人のセラフィムが」で歌われるイザヤ書からの一節は、言霊、あるいは音霊こそが天に帰還する証しとなるひとつであることを示す。思わず僕は内なる良心を振り返った。
クラウディオ・モンテヴェルディ生誕450年
バッハ・コレギウム・ジャパン
2017年9月24日(日)15時開演
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
・モンテヴェルディ:聖母マリアの夕べの祈り
―「神よ、わが保護に―主よ、われを助けに」
―詩篇109「主は、わが主に言いたまいぬ」
―コンチェルト「われは黒けれど」
―詩篇112「しもべらよ、主をたたえよ」
―コンチェルト「わが愛する者よ、汝は美し」
―詩篇121「われは喜びに満ちたり」
―コンチェルト「2人のセラフィムが」
―詩篇126「主が家を建てたまわずば」
―コンチェルト「天よ、わが言葉を聴きたまえ」
―詩篇147「エルサレムよ、主をたたえよ」
―「聖なるマリアよ、われらのために祈りたまえ」によるソナタ
―イムヌス「めでたし、海の星」
―マニフィカト
ソフィ・ユンカー、松井亜希(ソプラノ)
青木洋也(アルト)
櫻田亮、谷口洋介、中嶋克彦(テノール)
シュテファン・フォック、加耒徹(バス)
コンチェルト・パラティーノ(コルネット&トロンボーン)
鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパン
曲が進むにつれ一層輝きを増し、祈りの音調をたたえるBCJの魔法。何よりソフィ・ユンカーの素晴らしさ、また櫻田亮の素晴らしさ。
第10曲詩篇147を終えた後、一呼吸おいて遅れてきた聴衆が会場になだれ込む間、管弦楽はチューニングをしながら待った。その後のソナタもイムヌスもすごかったが、白眉はやっぱり第13曲マニフィカトだろう。12のパートに分けられる、晩祷の締めとなる大曲は器楽&声楽が一体になっての、それこそ一に帰する壮大さ。特に、7声の声楽と6声の器楽による最後のパートは本当に神々しかった。
全編通じてコンサートマスター、寺神戸亮の清澄なヴァイオリンは美しく、例えば第3曲コンチェルトでの野入志津子&佐藤亜紀子のリュートの可憐な瑞々しさに感動した。そしてまた、終演後の、満員の聴衆によって幾度もステージに呼び戻される指揮者とBCJ、そしてソリストの満足な様子に僕は歓喜した。
18年ぶりの再演だという今日の公演は、一世一代の記録であると真に思う。
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私も一番前の席で聴いていました。1993年、モンテヴェルディ没後350年記念のコンサートもこれでした。その時よりも一段と深まった内容です。鈴木雅明先生ご一家はクリスチャンで、日本キリスト改革派、東京恩寵教会で素晴らしいオルガンを聴かせています。また、教会カンタータ全曲のCDも献品され、鑑賞会を行っています。10月は、29日、宗教改革500年記念の礼拝で鈴木先生のオルガンも聴けますし、カンタータ鑑賞会では鈴木先生ご自身のお話も聞けますので、ぜひ、いらしてみてください。
>畑山千恵子様
25年前にも聴かれているんですね!
10/29の鑑賞会はとても興味深いです。調整してみます。
ありがとうございます。