モントゥー&ロンドン響のバレエ音楽「ダフニスとクロエ」を聴いて思ふ

ravel_daphnis_et_chloe_monteux053そこに男があり、女があり。戦いがあり、平和があり・・・。この世は二元の世界だけれど、もともとはひとつであったこと。そして、いずれはまたひとつに還るんだということを示唆する「ダフニスとクロエ」。

1912年のディアギレフ。彼の関心事は「牧神の午後」に集中していたわけだが、この作品が初演時に賛否両論を巻き起こし、スキャンダルとなったことに卒倒したことは先日も書いた。一方、10日後の6月8日に初演されたもうひとつの重要作、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」については作曲の遅れ、そしてフォーキンの振付の遅れから生じた準備不足などから中止しても良いとさえ思っていたほどディアギレフは無関心だった。何よりこの作品が交響的で舞踊には不向きに思えたこと、そして合唱など大掛かりな舞台が必要であることなどから無駄な浪費だと考えたかららしい。
確かにラヴェル自身は次のように書く。

この作品は厳密な調性のプランに従って、少数のモティーフを使って、交響的に構成されている。それらのモティーフの展開が作品の交響的同質性を確実なものにしている。
(モーリス・ラヴェル「自伝素描」)
アービー・オレンシュタイン著/井上さつき訳「ラヴェル生涯と作品」P78

そして、ディアギレフの判断通り、現実にリハーサルでは踊り手は大層苦労したらしい。

ラヴェルの音楽に関して批評はまっぷたつに割れたが、ほぼあらゆる記事から見て、上演の準備が不十分だったようだ。大荒れのリハーサルの間、踊り手たちはフィナーレの4分の5拍子をマスターするのにかなり苦労したらしい。
~同上書P78

グリゴリエフは書く。

ラヴェルは「ダフニスとクロエ」がシーズンの最後の最後に回されることを不満に思っている。確かにこのバレエは、こんな扱いを受けるべきではない。いいところがたくさんある。まずは素晴らしい音楽(長々しいところはあるかもしれないが)、三場に及ぶバクストの美しい装置、共感を呼ぶわかりやすい主役のニジンスキーとカルサーヴィナの恋、感動的なクライマックスへと盛り上げるフォーキンの馴染みの手法などである。「ダフニスとクロエ」は、もちろん作品にふさわしい賞讃は受けた。しかし、シーズン初めに初演され、ディアギレフがもっとよく面倒を見ていれば、ずっと大きな成功をかち得ただろう。
セルゲイ・グリゴリエフ著/薄井憲二監訳/森瑠依子ほか訳「ディアギレフ・バレエ年代記1909-1929」(平凡社)P76-77

・ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」
コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウス合唱団
ピエール・モントゥー指揮ロンドン交響楽団(1959.4.28-29録音)

合唱ヴォカリーズを伴った「宗教的な踊り」から「全員の踊り」にかけての神秘性。そして、「リュセイヨンの踊り」の後の、突然の海賊の来襲を表現するトランペットの咆哮に背筋が凍る。それにしても「夜想曲」の美しさはいかばかりか。
第2部の「戦いの踊り」、「クロエの踊り」という修羅場の切羽詰った緊張感にモントゥーの天才を見る。
そして、第3部のあまりの静けさと喜びの音調に、やはりすべてはひとつに戻るべきだとの示唆を得る。ここでも、初演者老モントゥーの類稀な緻密で官能的な表現に舌を巻く。特に、終結部の怒涛の前進性は圧巻。第1部同様、王立オペラ・ハウス合唱団による合唱が美しい。

「ダフニスとクロエ」はモーリス・ラヴェルの最高傑作である。同じ時期にストラヴィンスキーと共同でムソルグスキーの「ホヴァンシチーナ」の改作を行っていたという事実に感嘆。
さらには「春の祭典」の重要性を予見していたラヴェルの鑑識眼にひれ伏す思い。

「火の鳥」「ペトルーシュカ」そして「ダフニスとクロエ」が上演されたロシア・バレエ団の幕開けのシーズン中、ラヴェルとストラヴィンスキーは折に触れて、お互いのリハーサルに顔を出した。ふたりが、ムソルグスキーの未完のオペラ「ホヴァンシチーナ」のいくつかの部分をオーケストレーションしなおし、改作してほしいというディアギレフからの依頼を共同で引き受けたことによって、その友好関係はよりいっそう深まることになった。・・・この共同作業の期間中、ストラヴィンスキーはラヴェルに彼の最新作のバレエ「春の祭典」の手書き譜を見せた。ラヴェルは非常に熱中し、リュシアン・ガルバンに宛てた手紙で、「春の祭典」の初演は「ペレアスとメリザンド」に匹敵する重要なイベントになるだろうと予言した。
アービー・オレンシュタイン著/井上さつき訳「ラヴェル生涯と作品」P85

 

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