Hubert Laws “The Rite of Spring”を聴いて思ふ

hubert_laws_rite_of_spring050この不思議な哀感と快感、そして情動はジャズ・アレンジならではのものだ。音楽の源泉は古来絶対なるものへの祈りか、あるいは内燃するパッションの発露であった。それゆえに、静動いずれの舞踊も音楽と混成した時に、反発は常にあったにせよ大いなる感動を人々に与えた。舞踊という視点で音楽を聴くと実に面白い。

彼はストラヴィンスキーの音楽への客席の反応を不安視し、曲を批判するデモが起こるかもしれないとわれわれに警告した。そしてダンサーたちに、その場合は冷静に踊り続けるように、モントゥーには決して演奏をやめないように求めた。「何が起ころうと、この作品を最後まで上演しなくてはならない」と彼は言った。
セルゲイ・グリゴリエフ著/薄井憲二監訳/森瑠依子ほか訳「ディアギレフ・バレエ年代記1909-1929」(平凡社)P89

ディアギレフの信念こそが音楽を後世に引き継いだようなものだ。どれほど舞踊に不向きだという評価を受けようと、新しいものを世に送り出した彼の先見と勇気が結果的に現代の舞台芸術を作り上げているのである。

初演から60年近くを経てジャズ音楽として生まれ変わった「春の祭典」の素晴らしさに絶句する。いや、「春の祭典」だけでなく同収録のフォーレやドビュッシー、そしてバッハの作品にも、ジャンルを超えて音楽の「魂」が見事に息づき、聴く者は、初演当時「ダンス向きでない」と否定された音楽に思わず身体を動かしてしまいそうになるほど。

Hubert Laws:The Rite of Spring(1971.6録音)

Personnel
Hubert Laws (flute)
Gene Bertoncini (guitar)
Stuart Scharf (guitar)
Dave Friedman (vibes, percussion)
Bob James (piano, electric piano, electric harpsichord)
Ron Carter (bass)
Jack DeJohnette (drums)
Wally Kane (bassoon)
Jane Taylor (bassoon)
Airto Moreira (percussion)

フォーレの「パヴァーヌ」は、録音当時一世を風靡していたプログレッシブ・ロックの連中に影響を与えたのでは?あるいは逆にロウズが彼らの影響を受けたのかも・・・。ヒューバート・ロウズのフルートが泣き、ウォーリー・ケインのバスーンが囁く。それほどに静かでありながら密度の濃い音楽が漂う。
ストラヴィンスキーの「春の祭典」の何という絶妙なアレンジ!!冒頭の有名な主題提示の直後見事な即興が顔を出し、原曲の弦のトゥッティによるスタッカートのリズム(春の兆し)がパーカッションによって見事に表現される箇所では思わず鳥肌が立つほど。しかも、そこからフルートのインプロヴィゼーションが重なり、音楽が一層熱を帯びてゆく様に卒倒。このあたりはロウズ版「春の祭典」の白眉だろう。
続くドビュッシーの「シランクス」はロウズによるフルートの多重録音だろうが、この霊妙な横笛の響きに心動かされる。

最後は、J.S.バッハのブランデンブルク協奏曲。どういうわけか終楽章が収録されていないが、何とも愉悦に満ちた軽快かつ洒脱な表現に舞踊の中にこそバッハの真髄があることを知り、またバッハの音楽が(少なくとも世俗音楽が)当時よりポピュラー音楽であったことを再確認する。素晴らしい。

 

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