トスカニーニ指揮NBC響 ドヴォルザーク 交響曲第9番ホ短調作品95「新世界より」(1953.2.2録音)ほか

作曲者と同時代を生きたトスカニーニの慧眼。

トスカニーニと彼のトリノのオーケストラは次に、4つのコンサートを行なった。最初と3番目は、旧式の演目から成っており、管弦楽作品と、一人か別の地元のピアニストが伴奏する歌曲ないし独奏曲とが交互に演奏された。最初のコンサート—貧困者への奉仕に打ち込んでいる修道女のための慈善興行—でトスカニーニは、5年前に作曲されたドヴォルザークの「新世界」交響曲を初めて指揮した。後で、皇太子ヴィットーリオ・エマヌエーレの配偶者であるエーレナ妃は、トスカニーニを彼女のボックス席に呼び、彼の指揮と慈善の活動を称賛し、彼にイタリア王冠騎士団長の称号をイタリア国王の代理で授与した。3番目のコンサートで、トスカニーニとオーケストラは、高名なスペイン人ヴァイオリニストであるパブロ・デ・サラサーテの伴奏をした。
ハーヴィー・サックス/神澤俊介訳「トスカニーニ 良心の音楽家(上)」(アルファベータブックス)P142

何十年も後の、NBC響との演奏は、凝縮された音圧と、激しく内燃するパッションに溢れるドヴォルザークだった。ここにはもはや郷愁はない。むしろ祖国を離れ、新世界で新たな挑戦を誇る、自らを鼓舞する、そして祖国ボヘミアの地を称賛するトスカニーニの信念と創造力が詰まった名演奏が繰り広げられる。

・ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調作品95「新世界より」(1953.2.2録音)
・コダーイ:「ハーリ・ヤーノシュ」演奏会用組曲(1947.11.29録音)
・スメタナ:交響詩「モルダウ」(1950.3.19録音)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

火傷でもしそうなほどに熱いドヴォルザークに、若き日の僕は抵抗を覚えたものだが、今は違う。哀愁や憧憬や、そういう人間の感情をなぞるような演奏ではなく、楽譜から見える音楽そのものをストレートに表現した、鋼の「新世界」交響曲にあらためて感動する。

ドヴォルジャークは民謡をただ受け身的に模倣したのではなく、むしろあらゆる音調を自己の表現手段に合わせていったものと考えられる。ドヴォルジャークの音楽を特色づける後世の明晰さと堅固さは、各楽章の主要主題がロマン派の模倣的書法にしたがって反復されるという、循環的なソナタ形式を固持するところからきていると思われる。しかもそのような古典的な循環形式を、ドヴォルジャークは自由な創意のもとに駆使しているのである。
内藤久子「作曲家◎人と作品シリーズ ドヴォルジャーク」(音楽之友社)P168

保守と革新の絶妙なバランスの中で創造力を発揮するドヴォルザークの天才。
そして、ほど良い疾走感を保ちながら、まったく弛緩の音楽を創出するトスカニーニの陽気な「歌」がまた聴きもの。実にスマートだ。

ワルター指揮コロンビア響 ドヴォルザーク 交響曲第9番ホ短調作品95「新世界より」(1959.2録音)ほか

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