呼吸入門

大正新教育のリーダーで、今の総合教育の基を作った木下竹次は、あれこれ総合的にやる前に身体の中心を作ることの重要性を説いている。

「人は自由を欲するとともに束縛を欲する・・・思うに自由と束縛とは相対的なもので絶対に束縛もなければ自由もないはずである。鳥も空気の抵抗がなくては飛ばれない。釘も木片の反対がなくてはきかない。・・・束縛は自由を激成し束縛打破は自由行動者の愉快とするところである。自由行動がその束縛そのものに感謝することのすくないのは遺憾である。これを要するに縛解一如でなくてはならぬ。帯は身体を束縛する。しかし帯がなくては腹力がなくて活動自在にならぬことがある。縛即解・解即縛・学習もこの境涯に達しなくてはならぬ。」(『学習原論』明治図書)

以上は、「呼吸入門」(齋藤孝著)に引用されていた文章である。
なるほど、我々日本人が、先人の築いてきた生きていく上での智慧をすっかり忘れてしまっていることにあらためて気づかされる。何せタイトルが「呼吸入門」である。誰にも教わることなく、生まれてからこの方、意識することもなく誰もが当たり前のように「している」呼吸がテーマであることがまず驚き。逆に言うと、あまりに当然のことだから誰もが「呼吸」というものにほとんど関心をもったことがなかったということ。

でも、読んでみると、なるほど食べる以上に、あるいは何をおいても人間にとって呼吸がもっとも大切なことであるからすべてが納得できる。何日間も食べなくても人間は生きていけるが、5分も呼吸できないと死んでしまうということからもわかるように。

ところで、ある先生から聴いた話。
現代人は、特に日本人は大脳新皮質(それも左脳)ばかりを使っていて、生命エネルギーの根源である脳幹がめっきり衰えているらしい。少子化問題が騒がれて久しいが、子どもができないのではなく、要するに「つくる行為」をしていないのだから根本的に少子化政策を見直さなくちゃいけないと。なるほど、世の中の男性諸氏は皆疲れている模様(笑)。

一方、性に対してエネルギッシュなのは世界的にはフランスとブラジルのよう。やっぱりラテン系のあっけらかんとした明るい肉食系のパワーを取り戻さなくては日本はどうにかなってしまうかも。見習わなければ・・・。
ということで、西洋クラシック音楽の故郷であり、ラテン魂逞しいイタリアの音楽を。

イタリア歌曲集
チェチーリア・バルトリ(メゾソプラノ)
ジェイムズ・レヴァイン(ピアノ)

ロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティの歌曲を集めた華麗なる1枚。煌びやかで、上品で、バルトリのメゾはいつ聴いても心の奥底にまで響き渡る。喜びは開放的に、悲しみは沈鬱として・・・。歌手というのは、それこそ「呼吸」が命であろうが、人間の声というものの可能性を見事に知らしめてくれる。それに何より、特筆に値するのがレヴァインのピアノ。古くはフルトヴェングラーやワルター、少し後の世代ではサヴァリッシュやショルティなど名指揮者のピアノはいずれも聴きものが多いが、情感がこもっていて、かつテクニカルでとても素敵。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。

>少子化問題が騒がれて久しいが
そもそも少子化対策など必要なんでしょうか?
これ以上世界の人口を増やしてもよいものでしょうか?
食糧問題は?
エネルギー問題は?
二酸化炭素排出量増の問題は?

>明るい肉食系のパワー
男を草食系、肉食系で分類することは、
無知からくる陳腐だと思いませんか?
もう止めたいものです。
誰が最初にそんな阿呆なこと言い出したんですかねぇ。
草食系の代表、馬の精力絶倫さを見よ(笑)。
野生の山羊も 獰猛で精力絶倫な動物として有名です。

今回も、「常識は疑ってかかるべき」だと、思いました(笑)。

バルトリ、いいですねぇ。
私が初めて彼女の魅力を堪能したのは、
ロッシーニ:歌劇『シンデレラ(チェネレントラ)』 全曲
バルトリ、カンパネッラ&ヒューストン・オペラ(1995)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/524690
の映像によってでした。
ご紹介の盤は所有しておりませんが、欲しくなりました。

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岡本 浩和

>雅之様
こんにちは。
確かに常識は疑ってかかるべきですよね。
でも、その常識を疑うということすら疑ってみるのは大事かもしれません。
今回書いたことは、少子化について云々したいというのではなく、日本人が古来からもっていた素晴らしい智慧をすっかり忘れてしまっているということが言いたかったのです。
あと日本人に限らずですが、身体が自分のことを一番よく知っているということも。
陰陽、明暗、長短あっての調和じゃないですか!
思考も身体もバランスを崩してしまっているから諸問題が起こっているだけだということを再確認しました。もちろん今回の地震や原発の問題も全体のバランスが崩れた結果起こったことだと思います。

ご紹介のオペラは観ておりませんが、バルトリいいですよね。
イタリア歌曲集おすすめです。

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