オピッツ&ヴァントのシューマン協奏曲、モーツァルトK.550を聴いて思ふ

schumann_mozart_wand_oppitz124壁が高ければ高いほど、乗り越えた時の達成感、そして幸福感はより大きなものになる。
ロベルト・シューマンとクララ・ヴィークの結婚は一筋縄ではいかなかった。父親の徹底的な反対に遭い、ことは裁判闘争にまで及ぶ。二人は1840年9月12日に秘かに結婚するも、父フリードリヒとの和解は1843年まで待たなければならなかった。

最も幸福で、安定していた時期のロベルト・シューマンの心情をいかにも表すような堂々たるフォルムに、愛らしいピアノとオーケストラの個々の楽器が見事に協奏する様は、ようやくひとつになったロベルトとクララの魂を表現するかのよう。
第1楽章アレグロ・アフェットゥオーソ冒頭の叩きつける激しい和音から心を奪われ、続くピアノによる静かで愛らしい第1主題に心の安寧を思う。音楽はどの瞬間も有機的で、例えばピアノと木管楽器のやりとりなど、聴いていてホッとするシーンが多々。
第2楽章アンダンテ・グラツィオーソの、ピアノの囁くような問いとそれに優しく応えるオーケストラの妙味にギュンター・ヴァントの包容力を思う。
そして、終楽章アレグロ・ヴィヴァーチェの繊細でありながら重厚な躍動感はゲルハルト・オピッツの天才。何より、圧倒的コーダまで一糸の乱れなく追随するオーケストラに感服。ライブならではの勢いとエネルギーの放出は終演後の聴衆の感極まるような怒涛の拍手に刻印される。

ギュンター・ヴァント・エディション
・シューマン:ピアノ協奏曲イ短調作品54(1983.3.21Live)
・モーツァルト:交響曲第40番ト短調K.550(1990.12.17Live)
ゲルハルト・オピッツ(ピアノ)
ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送交響楽団

しかし、僕が一層釘付けになったのはモーツァルトのト短調交響曲。
第1楽章モルト・アレグロの理想的なテンポ、第1主題の内側から込み上げる哀惜の表情、とはいえやはりヴァントならではの堂々たる音作り、すべてがモーツァルトの魂と直結して透明で神々しい。晩年に差し掛かったヴァントの棒は冴えに冴え渡る。
第2楽章アンダンテは安息の音楽。そして、それと対立する如く第3楽章メヌエットの主題が悲しみに揺れ、うねる。トリオの急くようなテンポ感に、生の儚さを見る。
白眉は終楽章アレグロ・アッサイ。灼熱の悪魔的音楽を期待する僕たちの前に提示されるのは、どちらかというと優美で天使のような繊細で明朗な音楽。第2主題のあまりの静謐で純白の音調に思わず膝を打つ。展開部を経て、再現部、コーダへと慌てず騒がず、ヴァントは音楽を徐々に盛り上げる。

孤高の奉仕者ギュンター・ヴァントと、ドイツ正統派の重厚かつ繊細なピアノを聴かせるゲルハルト・オピッツ。
二人の職人の織り成す至芸は、僕たちに音楽の素晴らしさを教えてくれる。

 

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