雨模様の庭園美術館

brahms_wlach_quintet.jpg目黒の東京都庭園美術館大ホールでの「愛知とし子ピアノリサイタル」が無事終了した。先日の多治見でのコンサートの日もどういうわけか雨だったが、今日も午後から雨模様。リサイタル開始時間に合わせたかのように雨が降り始め、時間を追うごとに雨脚が激しくなっていく。主催者側からすれば生憎の雨で申し訳ない気持ちにもなるのだが、実はこの雨こそが最高の演出だったことに後から気づく。
この会場は多目的ホールゆえ通常のコンサートホールとは造りが違う。そのため音響こそ問題があるものの観客席から見る窓越しの背景には雄大な庭園が展開しており、雨に濡れた木々や風に揺れる木の葉がピアノの音と連動するように映え、雰囲気満点の舞台になった。お客様にも喜んでいただけたようで本当に良かった。それに、この時期、日の落ちるのも早く、コンサートが終盤になるにつれ少しずつ暗くなっていく様は見事で、薄暮の中でのピアノの音色は何とも感慨深かったことを付記しておく。天に感謝。

ところで、肝心の演奏。会場のせいもあってピアノの「鳴り」こそはいまひとつだったが、1週間前とはまた違った解釈でのパフォーマンスだったゆえ、そういう意味ではとても面白かった。例えば、愛知とし子が得意とするベートーヴェンの「テンペスト」。多治見公演での演奏が「動」とするなら今回の演奏は「静」。ゆったりと落ち着いた気持ちで十分に間合いを取りながらの深い呼吸の演奏。個人的には勢いのある前回の演奏が好みだが、今日の演奏もまた素晴らしい。
それにしてもたった1週間の差でこうも違う印象を受けるのだから、クラシック音楽を聴く醍醐味が「聴き比べ」にあることを再確認する。同じ人間といえども弾く場所やそこにいる聴衆の状態、あるいは自分自身の体調によって全てが変化するのである。
今日もバッハやショパン、リストなどの演奏を聴いてみて、やっぱり愛知とし子はドイツ物に絞って演奏活動を展開したほうが性にあっているのではないかという結論に達した。不得手なものを無理してやるより得意なものを徹底的にやりこんだ方が良いに決まっている。何事もそうだ。J.S.バッハ、ベートーヴェン、シューマン、ブラームス。このあたりが彼女の今後のライフワークとなろう。

ブラームス:クラリネット五重奏曲ロ短調作品115
レオポルト・ウラッハ(クラリネット)
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団

この曲は何度聴いても痺れてしまう。老境の切ない思いがいっぱいに詰まっている。それをより一層哀しく表現するウラッハの手腕。今日のような雨の日には独奏ピアノの愁いある響きもいいのだが、ブラームスの室内楽こそが晩秋の黄昏時に相応しい。天下の名盤である。

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