グールド・ピアノ・トリオのヨーク・ボーウェン「室内楽作品集」を聴いて思ふ

york_bowen_gould_piano_trio162この人はたぶんブラームスやチャイコフスキーなんかの影響を多大に受けているのだと思う。
音楽の隅から隅まで浪漫魂に満ち、軽快で愉悦的な音調あり、時にものすごく哀愁溢れる旋律が顔を出す。それでいて20世紀的なイディオムを多用して聴衆に訴えかけようとするのだから、今の世に生きる僕たちには実に心地良い。

世に知られざる作曲家は多い。そんな人々の作品にも、目を瞠る、精神を触発されるべきものは数多。20世紀の英国の憂愁を背負うヨーク・ボーウェン。
第2次大戦中に作曲されたクラリネット・ソナタ第1楽章アレグロ・モデラートの主題の仄暗い美しさに感動(チャイコフスキーのピアノ・トリオが木魂する)。短い第2楽章アレグレット・ポーコ・スケルツァンドの諧謔の妙味。そして、第3楽章はボーウェンの様々な音楽的アイディアが詰め込まれた音の玉手箱。それにしてもロバート・プレーンのクラリネット演奏は実に巧い。

ヨーク・ボーウェン:室内楽作品集
・クラリネット・ソナタヘ短調作品109(ポーリン・ジュラーに捧ぐ)(1943)
・ラプソディ・トリオイ短調作品80(1925-26)
・ピアノ三重奏曲ニ短調(未完成)(1900)
・バス・クラリネットと弦楽四重奏のための幻想的五重奏曲ニ短調作品93(1933)
・ピアノ三重奏曲ホ短調作品118(1946)
ロバート・プレーン(クラリネット&バス・クラリネット)
グールド・ピアノ・トリオ
ミア・クーパー(ヴァイオリン)
デイヴィッド・アダムズ(ヴィオラ)(2013.1.11&4.29-5.1録音)

ラプソディ・トリオの13分半の中には、悦びと哀しみと、楽観と悲観と、様々な感情が蠢く。秋を感じさせるブラームスの世界と相似形。
そして、世界初録音となる未完のピアノ三重奏曲は、グールド・ピアノ・トリオの類稀な音楽的力量が垣間見られる好演。
とはいえ、何と言っても素晴らしいのが、バス・クラリネットと弦楽四重奏という珍しい組み合わせの五重奏曲。単一楽章のこの作品は、全盛期のボーウェンの創造性が開花した「幻想的」という表題通りの作品。バス・クラリネットの奏でる太く低い旋律が、高弦を主体にした弦楽四重奏の伴奏の上に映える。特に後半部ピウ・ソステヌート・トランクィロの、チャイコフスキーを髣髴とさせる静かな郷愁に虜になる。
戦後すぐに生み出された作品118のピアノ三重奏曲は、前時代の雰囲気を十分に残しながら都会的センスに溢れる名作。グールド・ピアノ・トリオの熱く奔放な演奏に時が過ぎるのを忘れてしまいそう。ちなみに、第2楽章アダージョ―ポーコ・レント―モルト・トランクィロは、戦争で亡くなった人々への悼みの心情が反映されているのか、悲しく深い。同時に未来への希望が託される如くの明るさをも持つ。不思議に魅力的な音楽だ。

 

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2 COMMENTS

畑山千恵子

グールド・ピアノ・トリオとは初耳です。なぜ、グールトでしょうか。

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岡本 浩和

>畑山千恵子様
あ、紛らわしいですよね・・・。
ルーシー・グールド(ヴァイオリン)、
アリス・ニアリー(チェロ)、
ベンジャミン・フリス(ピアノ)によるトリオなのです。

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