オスカー・シュムスキーの奏でるバッハは柔らかく和みに満ちる。
例えば協奏曲イ短調BWV1041の第1楽章アレグロ。
オーケストラの決然とした主題提示の後、徐に奏される独奏ヴァイオリンの芯のある揺るぎない響きに冒頭から釘付けになる。
ヨハン・セバスティアン・バッハへの尊崇の念はもちろんのこと、偏に音楽を愛するこの人の心が反映される見事な音楽だ。そしてまた、緩徐楽章(アンダンテ)における幽玄で陶酔的な、魔法のような旋律。まるで地から湧き出る如くの自然な歌。痺れる・・・。
さらには終楽章アレグロ・アッサイの、誰よりもバッハの音楽を愛すると言わんばかりの陽気と愛情に溢れる響き。旋律は踊る。
驚くべきはオーボエとヴァイオリンのための協奏曲ハ短調BWV1060。
何とここでオーボエ独奏を受け持つのが、1970年にKing Crimsonの”Lizard”に客演したロビン・ミラー(”Bolero”におけるミラーのオーボエに、メル・コリンズのサックス、そしてマーク・チャリグのコルネットの三つ巴は実に素晴らしく、特にミラーの哀愁感溢れる旋律に大いに心動かされたものだ。それを髣髴とさせる、シュムスキーとの対話が見事な第2楽章アダージョの奇蹟)!!カンタータや受難曲にも出てきそうな悲愴感漂う音楽に、ここでもロビンのオーボエが泣くのである。
J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲集
・ヴァイオリン協奏曲イ短調BWV1041
・オーボエとヴァイオリンのための協奏曲ハ短調BWV1060
・ヴァイオリン協奏曲ホ長調BWV1042
・2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調BWV1043
オスカー・シュムスキー(ヴァイオリン)
ロビン・ミラー(オーボエ)
ジョン・タネル(ヴァイオリン)
スコットランド室内管弦楽団(1984.1録音)
そして、一層素晴らしいは2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調BWV1043。2挺のヴァイオリンのまさに愛らしい協奏!!第2楽章ラルゴ・マ・ノン・タント終結の夢見るようなリタルダンドには思わず涙腺が・・・。
晩年になり、機が熟してようやく演奏者としての舞台や録音活動を活発化させたオスカー・シュムスキーの生気溢れるバッハを聴いて、ケーテン時代のバッハの真に充実した日々を想像する。
音楽は愛だと。
おお、手をとってくれウォルト・ホイットマン、
次次と移り変わるこの驚異、これら得も言われぬ光景と音響、
固く結び合う終わりないこの連鎖、一つ一つの環が次の環にしっかりとかかり、
一つ一つが万物に呼応し、一つ一つが万物と地球を分け合う。
「こんにちは世界くん」
~ホイットマン作/酒本雅之訳「草の葉(上)」(岩波文庫)P337
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