アルゲリッチ&ゴールドベルクのモーツァルト協奏曲ハ長調K.503(1978.5.6Live)を聴いて思ふ

mozart_25_argerich_goldberg391モーツァルトのハ長調協奏曲K.503が、これほどまで美しく、ニュアンス豊かに響いたことがかつてあったろうか?この実況録音を初めて聴いたとき、マルタ・アルゲリッチの天才に感服した。もちろんそれは、バックを務めるシモン・ゴールドベルク&オランダ室内管弦楽団の力量も大きい。ソリストの自由奔放さを受け容れ、しかも渾然一体となってモーツァルトの魂を表現した見事な演奏。
それこそ当日のコンセルトヘボウにいた人々だけが享受できた一期一会の、奇蹟のパフォーマンスだと言っても決して言い過ぎではない。

どの瞬間も音楽は生き生きとする。マルタ・アルゲリッチが唯一認めたであろう師フリードリヒ・グルダのそれを遥かに超える至高のモーツァルト。言葉にし難い感動。

一つだけ確かなのは、マルタはこれ以上ありえないほど強くグルダから感銘を受けていて、彼を落胆させるのが何よりも怖かったということだ。
オリヴィエ・ベラミー著/藤本優子訳「マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法」(音楽之友社)P54

13歳の天才少女が22歳の天才青年に惚れた瞬間・・・。

ジャン=ジャック・ルソーが「野生児たち」と出会ったときと同じくらい、グルダも野生児の音楽に魅せられた。無垢な個性、子どもならではの嘘のなさ、「生まれついての純真」な発想。モスクワ音楽院で、ゲンリッヒ・ネイガウスがオデッサから出てきたばかりでわずか22歳だったスヴャトスラフ・リヒテルという鬼才による本能的で型破りの演奏を聴いたとき、同じことを感じたに違いない。相違はアルゲリッチがまだ13歳だったという点だ。
~同上書P55

そして、その青年も可憐な少女を見初めた。
アルゲリッチとグルダの出逢いは奇蹟的だ。そこには、互いが互いに対し、天才を見出した瞬間があった。

・モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番ハ長調K.503
シモン・ゴールドベルク指揮オランダ室内管弦楽団(1978.5.6Live)
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番ハ長調作品15
ハインツ・ワルベルク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1992.10.1Live)
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)

雄渾な響きの第1楽章アレグロ・マエストーソで繰り返される「フランス国家」の断片を聴くと僕はチャイコフスキーを思い出す。なるほど「1812年」序曲において彼は敬愛するモーツァルトからその旋律を拝借したのかも。
そしてまた、同時にここには、「魔笛」の木魂すら聴こえるのである。この大いなる愉悦、そしてその背後に見え隠れする哀愁。
モーツァルトの歴史をひもとくと、この作品が完成したちょうどその頃(1784年12月4日)、彼はフリーメイスンへの加入を決めたのだった。実に興味深い!

1784年の11月1日、モーツァルトは秘密結社フリーメイスンに加わることを申請し、12月14日「ツァ・ヴォルテーティヒカイト」(善行)分団への入社を認められた。そして、翌85年の1月初めには、「徒弟」から早くもフリーメイスンの第二級「職人」へと進級を許されている。
高橋英郎著「モーツァルトの手紙」(小学館)P343

第2楽章アンダンテの慈しみ、ほとんどアタッカで奏される終楽章アレグレットの瑞々しさ!

真に天才モーツァルトの真髄。
アルゲリッチが跳ね、そして飛ぶ。
それにしてもアルゲリッチの笑顔が何と素敵なジャケット。

 

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