フルトヴェングラーのベートーヴェン交響曲第3, 5&9番を聴いて思ふ

beethoven_3_5_9_furtwangler107何という仄暗い精神的闘争!第1楽章アレグロ・コン・ブリオにおける、深沈としながら常に発光し、しかも生き物のように蠢き前進する音楽の崇高さ。再現部での深淵から主題が顔を覗かせ、ゆっくりと爆発する様に感動し、その後の強烈なアッチェレランドに心躍る。コーダの推進力も他を圧倒し、冠絶する超越名演奏。
フルトヴェングラーの「エロイカ」は数多あるが、実にウィーンのスタジオ録音と双璧の、そして実況録音盤では隠れたファイン・プレーのひとつではないかと思った。
何よりライブの人、フルトヴェングラーのすべてがここに在ると言っても過言でない。

ワーグナーは「エロイカ」をしてかくの如くコジマに語る。こんな風に音楽を、ベートーヴェンを捉えられるワーグナーはやっぱり天才だ。

朝、リヒャルトはわたしにこう言った。「それひとつで新しい音楽全体を代表する音は何か、知ってるかい。それは嬰ハCisだよ。「エロイカ」の第1主題の嬰ハ音のことだ。ベートーヴェンのあとにも先にも、これほど完璧なやすらぎにつつまれた吐息をもらした作曲家がいるだろうか」。
1871年6月17日土曜日
三光長治・池上純一・池上弘子訳「コジマの日記2」(東海大学出版会)P467

そして、闘争の内に在りながら、まさに「完璧な安らぎにつつまれた吐息」を見事に表現するのがヴィルヘルム・フルトヴェングラーその人なのである。第2楽章「葬送行進曲」の、トリオの後の主題再現の深い精神性に感涙。高弦が朗々と歌い、低弦がティンパニとともにうなるシーンに慄き、肺腑を抉られるような金管の咆哮に言葉を失う。
さらに、コーダの深い祈りには、「エロイカ」演奏史上最高の安息が訪れる・・・。

ベートーヴェン:
・交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1953.9.4Live)
・交響曲第9番ニ短調作品125「合唱付」
エルナ・ベルガー(ソプラノ)
ゲルトルーデ・ピッツェンガー(コントラルト)
ヴァルター・ルートヴィヒ(テノール)
ルドルフ・ヴァッケ(バス)
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団&合唱団(1937.5.1Live)
・交響曲第5番ハ短調作品67
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1944.2.7Live)

戦時中のベルリン国立歌劇場での実況記録である第5交響曲も、彼の幾種もある同曲の中で1,2を争うもの。ウィーン・フィルとのスタジオ録音での客観性と、荒れ狂うライブでの主観的でありながら中庸の完全な第5番。例によってテンポの揺れの激しい壮絶な演奏だが、過不足なくフルトヴェングラーの第5番を堪能できる。例えば、第2楽章アンダンテ・コン・モートの重厚かつ意味深い足取り、変奏曲後半の音楽による解放の見事さ、そして終楽章冒頭の主題提示の際の強烈な光彩を放つ金管群の響きと、一旦スケルツォ主題に戻る際の巧みなブレーキング及び直後の再現の勝利の進軍の極めて自然なフレージング・・・。コーダの突進は決して崩壊せず、完全な陶酔が訪れる。どこをどう切り取っても最高のベートーヴェンがここには在る。
ちなみに、ワーグナーも第5交響曲を得意としたという。どんな演奏だったのか、聴いてみたかった。

立派な会場。宮廷のお歴々が居並ぶ。すべてが滞りなく運んだ。リヒャルトがとりつけさせた反響壁のおかげで、オーケストラはすばらしくよく響いた。満場の拍手がいつまでも鳴りやまない。わたしがもっとも感銘を覚えたのは「ハ短調交響曲」。リヒャルトは満足そう。われらがよき友人、フォン・シュライニッツ夫人も喜びに顔を輝かせた。
1871年5月5日金曜日
~同上書P423

ところで、1937年のジョージ6世戴冠式記念での、これまた若々しくデモーニッシュな「第9」の素晴らしさ。第3楽章アダージョ・モルト・エ・カンタービレの相変わらずの静謐な安寧と崇高さに跪き、終楽章コーダの圧倒的アッチェレランドに感動するも、特筆すべきは、バイロイト盤をも上回るであろう終楽章合唱によるいつまでも終わることのない(ように感じさせる)”vor Gott”(神の前に)のフェルマータ!!

 

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フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱」(1937.5.1lIVE) | アレグロ・コン・ブリオ

[…] ちなみに、商業録音集成ボックス中の新リマスター盤と、かつて東芝EMIからリリースされていた(悪評高い岡崎好雄リマスターによる)TOCE-3729を比較試聴してみたが、少なくとも僕の耳ではより音圧が高く、聴きやすい東芝EMI盤の方を推す(ただし、若干ピッチが高めなのか、どの楽章もタイミングが20秒から30秒の違いがあり、気になるところ)。あと、2000年代にリリースされたGreat Conductors of the 20th Centuryシリーズの2枚組セットにもこの音源が収録されているが、こちらは収録時間の関係から第2楽章スケルツォの主部第1部の反復がカットされており、問題あり。 […]

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