ロイ・グッドマン指揮ヨーロッパ連合バロック管のバッハ「マルコ受難曲」(1996.3録音)を聴いて思ふ

bach_markus_passion_goodman402身体に縛られる僕たちは自由でないから解放を求め、自由に憧れるのだろう。
真の自由というのは規律の中にあるものだ。
その証拠に、多くの人々が「自由に振舞って良い」といわれると逆に戸惑ってしまう。
自由になりたいと願いながらも、果たして本当に自由にされるとどうして良いのかわからなくなる人間というのは本当に困ったもの。

調和も破壊もすべてルールが前提。
そもそも西洋古典音楽が美しいとされるのは、いわゆる平均律という枠の中に閉じ込められたがゆえなのか。そして、仮にそれを破ったとしてもそこには不協和音という美が残った。
ちなみに、平均律という、その西洋音楽システムの厳格な形を完成させたのはヨハン・セバスティアン・バッハだといわれる。この人の音楽は厳しくも美しい。時に魂を刺激し、時に心を癒す。

バッハの受難曲が少なくとももう一つ存在していたことは、すでに確認されている。それは1731年の受難節のために作られた「マルコ受難曲」BWV247で、現在ではその歌詞のみを、作者ピカンダー(「マタイ受難曲」の作詞者と同じ)が1732年に出版した詩集から知ることができる。初演時の楽譜はすべて失われてしまったが、推測によれば、音楽の骨格をなしていたのは、ザクセン選帝侯妃クリスティアーネ・エーバーハルディーネのための追悼カンタータ「侯妃よ、さらに一条の光を」(BWV198)からの転用曲であった。全体は46曲で「ヨハネ」「マタイ」両受難曲よりもずっと短かったが、コラールは逆にそのどちらよりも多い16曲を占め、冒頭と結尾の自由合唱を加えれば、合唱の役割がきわめて大きかった。アリアはわずか6曲で、「マタイ」に多いアリオーソ風のレチタティーヴォは、一曲もなかった。アリアの2曲は、自由合唱曲と同じくBWV198からの転用。他のアリアのうち、1曲はカンタータ「いざ、罪に抗すべし」BWV54から、残り2曲は、失われたカンタータからの転用と推測される。ただし、聖句レチタティーヴォは、バッハの方針として、すべて新作されたはずである。したがってレチタティーヴォが失われた以上、この受難曲の厳密な復元は不可能である。
礒山雅著「マタイ受難曲」(東京書籍)P57-58

まさに規律の中で自由に飛翔する音霊。
厳密には復元できないがゆえのロマン。世のバッハ愛好者は、本物を誰も聴いたことのないこの「マルコ受難曲」に夜も眠れないほど憧れ、空想するのだろう。

J.S.バッハ:マルコ受難曲BWV247(サイモン・ヘイズ博士による復元版)
ロジャーズ・カーヴィ=クランプ(テノール、福音史家)
ゴードン・ジョーンズ(バリトン、イエス)
コナー・バロウズ(ボーイ・ソプラノ)
デイヴィッド・ジェイムズ(カウンターテナー)
ポール・アグニュー(テノール)
テッポ・テロネン(バリトン)
フィンランド・リング・アンサンブル
ロイ・グッドマン指揮ヨーロッパ連合バロック管弦楽団(1996.3.25-30録音)

例えば、カウンターテナーによる第19番アリアの清澄な美しさ。厳密さはどうであれ、間違いなくバッハの響きに心震える。
あるいは、短い第21番コラールの哀感溢れる合唱や、第23番コラールの劇的な合唱と透明感溢れる管弦楽の響きに涙する。

何という憧憬!!バッハの音楽は本当に素敵だ。バッハの音楽が美しいのは厳格な規律の中にあるがゆえ。調性という枠の中にあるからこその真実を垣間見る。

 

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2 COMMENTS

雅之

ああ、今回の本文に全面的に共感します。バッハ:マルコ受難曲復元版もよい出来栄えで、バッハの素晴らしさを「バッハという規律」の中でしっかり伝えてくれて、ご紹介の音盤を聴いて感動した記憶が甦りました。

規律と自由のバランスの間で苦労した現代音楽の作曲家にペンデレツキがいます。
彼の「ルカ受難曲 」も、そのさじ加減が絶妙で、真の傑作だと信じています。

http://www.amazon.co.jp/%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%AC%E3%83%84%E3%82%AD-%E3%83%AB%E3%82%AB%E5%8F%97%E9%9B%A3%E6%9B%B2-%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%88/dp/B0000ZP5UU

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