嫌がらせ

satie_poulenc_Luisada.jpg足の引っ張り合い。嫌がらせ。政界でも経済界でも人間の醜い争いが絶えない。誰の中にも「腹黒い」部分はあろう。それにしてももっとお互いが協力してひとつのことを追い、達成できないものなのか・・・。みんなが求めていることってひとりひとりの「幸せ」だと思う。みんなが平等に「幸せ」になれるならならそれに越したことはないだろうに。

先日の「早わかりクラシック音楽講座」で採り上げたラヴェルの「ボレロ」については、その音楽の凄さをご参加いただいた方に思う存分語らせていただいた。また、講座のホームページにも僕なりの「思うこと」をコラムとしてアップした。

ラヴェルにせよドビュッシーにせよ、同時代のフランスの作曲家がこぞって尊敬したといわれるエリック・サティ。生き様といい、創作する作品の風変わりなタイトルといい、20世紀後半から現在に生きる僕たちには、限りなく「奇人変人」というイメージを喚起する芸術家であるが、その音楽をひとつひとつじっくり聴くと、「寂しさ」と「優しさ」、そして「喜び」と「悲しみ」など人間本来の感情が錯綜する、何とも言えぬ魅力が感じとれる。例えば、「ヴェクサシオン」。1、2分ほどの旋律を何と840回も繰り返すという指示を持つピアノ音楽。18時間超の時間を要するらしく、いまだかつて一人のピアニストが演奏した記録はないらしい。まさに「ヴェクサシオン=嫌がらせ」というタイトルに相応しいサティらしい挑戦である。

ここに素晴らしいサティ&プーランクの作品を集めた音盤がある。

サティ:「ヴェクサシオン」、「グノシエンヌ」、「ジムノペディ第1番」、「スポーツと気晴らし」ほか
プーランク:ぞうのババール
ジャンヌ・モロー(語り)
ジャン=マルク・ルイサダ(ピアノ)

じっくりと間合いを取りながら、思索に耽るように紡ぎ出されるルイサダのピアノ・・・。そして、ジャンヌ・モローの独特の口調とフランス語の何とも表現し難い退廃的な音の響き。サティが楽譜に書き込んだ独特の詩を往年の大女優の語りとともに進行してゆく企画はルイサダ自身が望んだものなのだという。そういえば昔、初めてフランソワ・トリュフォーの映画をいくつか観た頃、あまりに若かったせいか、あるいは人生経験がまだまだ少ないせいか、そんな話がそうそうあるものかとついつい思ったものである。「恋のエチュード」といい、「突然炎のごとく(ジャンヌ・モロー主演)」といい、僕が好きなトリュフォー映画は三角関係が多い。それも現実にはありえないんじゃないかと思われるような関係性で・・・。
歴史は繰り返す・・・。そして、人も同じ事を繰り返す。何度も・・・。

ところで、「ぞうのババール」は、ジャン・ド・ブリュノフの物語が人間世界の優位性を暗に謳っているところが何だか傲慢に思えて、僕はあまり好きじゃない。それでも、プーランクのつけたセンス満点の音楽と、まるで高級ワインのようなルイサダの芳醇な薫りを醸し出すピアノと、何よりもジャンヌ・モローの囁くような語りが最高ゆえ、「癒し」の音楽として聴くなら絶品だと僕は思う。


3 COMMENTS

雅之

こんばんは。
>みんなが求めていることってひとりひとりの「幸せ」だと思う。みんなが平等に「幸せ」になれるならならそれに越したことはないだろうに。
今は20世紀型社会システムや、20世紀型価値観が音を立てて崩れ去っていく断末魔の時期だと思います(クラシック音楽界も例外ではない)。この人類の苦しみ、もがきは当分続くでしょうね。私たちが評論家のように人ごとだと思ってぬくぬくしているうちは、事態は好転しないでしょう。
ラヴェルについて・・・。岡本さんはラヴェルの自作自演や初演者による音源を聴かれたことがありますか?
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2653049
もしなければぜひ聴いてみてください。様々な驚きの発見があると思いますので・・・(一例、「ボレロ」のトロンボーンの表情)。音質も充分鑑賞に耐えます。
ご紹介の盤は未聴ですが好さそうですね。ぜひ入手し、聴いてみたいです。
「ぞうのババール」は、ジャン=ルイ・フォレスティエ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢他を所有しています。
http://www.orchestra-ensemble-kanazawa.jp/cd/no_43.html
邪道ですが、日本語の語りがわかりやすいですし、のだめで有名になった、ジョリヴェ「打楽器と管弦楽のための協奏曲」が聴ける貴重な盤でもあります。
サティは、以前にもご紹介しました、
クリスタル・ドリーム~サティ、吉松隆ピアノ作品集~ ロジェ
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3523509
が最近のお気に入りです。また、このSACDのピアノ録音は最高です。ぜひお試しを!

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。ラヴェルの自作自演は未聴です。本当は講座前に聴きたくてあちこちショップを探し回ってたんですが、見当たらず、だったのです。「ネットで買う」ということをすっかり忘れてました(笑)。これは絶対に買います。
前にも書きましたが、「ぞうのババール」はかつて忌野清志郎の語りで高橋アキが弾いたものがリリースされたんですが、友達にプレゼントであげて自分では所有してないのです。ジョルジュ・プレートルのオケ版も収録されてましたから今となっては自分用にキープしておけば良かったと後悔しております。
>ジョリヴェ「打楽器と管弦楽のための協奏曲」が聴ける貴重な盤でもあります。
この音盤は貴重ですね。
以前にもご紹介いただいたロジェのサティ&吉松、聴いてみます。

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アレグロ・コン・ブリオ~第5章 » Blog Archive » 忌野清志郎&高橋アキの「ぞうのババール」 へ返信するコメントをキャンセル

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